殺虫剤の歴史を調べると、必ず出てくるDDT。なぜ必ず出てくるのかというと、化学合成された最初の殺虫剤であり、それまで天然由来の物質を使ってきた殺虫剤の歴史を塗り替えるほどの、きわめて大きな社会的貢献を果たしたからです。にもかかわらず、DDTは今では農薬の“悪の象徴”のような扱いを受けています。
改めて、このDDTの歴史を振り返りながら、薬剤のリスクとベネフィットについて考えてみたいと思います。
製品化の功績でノーベル賞も
DDTとは「Dichloro Diphenyl Trichloro ethane」の頭文字をとったもので、化学構造に塩素を多く含むことが特徴です(有機塩素系)。
1873年、オーストリアのオトマール・ツァイドラーが書いた博士論文に製造法が記載されましたが、何に有効な物質なのか分からないまま60年以上放置されていました。
1939年、そのDDTに極めて高い殺虫効果があることを発見したのが、ガイギー社(現ノバルティスの前身の1つ)のパウル・ヘルマン・ミュラーの研究グループでした。ガイギー社はDDTを素晴らしいスピートで農薬用と公衆衛生用殺虫剤として製品化し、ミューラーは、この業績で1948年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
DDTは殺虫性能が高いだけでなく、とても簡単に安価に製造できました。あまりに低コストで容易に作れるので、昔、日本で有機化学を学ぶ学生が実習課題としてDDTの合成実験を行っていたくらいです。
第2次大戦の勝敗をも左右した?
さて、DDTは農薬としても大いに普及しましたが、公衆衛生分野ではマラリア対策の殺虫剤として普及しまた。熱帯で猛威をふるうマラリアの発生源であるマラリア原虫は、「ハマダラカ」という蚊によって媒介されます。よってハマダラカを駆逐すれば、マラリアは広がることはないのです。