農薬を毛嫌いする無農薬主義に・・・

 その昔、ある農業関係の勉強会に参加していました。バスで移動していたのですが、バスの前の方から大きな声が聞こえます。無農薬で作物を作っている方が、隣に座っていた植物病理が専門の大学の先生相手に相談をしているのです。

 相談内容は、作っている作物が病気にかかって収量が激減しているがどうすればいいのか、というものでした。

 先生としてはその状況なら「農薬を使うしかないでしょう」と言うのですが、無農薬農家さんとしては、それだけは認められない。農薬以外の何か他の策はないのかと相談しているのですが、「農薬使いなさい」「農薬以外のやり方を知りたい」の水かけ論になっています。周囲も最初は興味深く聞いていたものの、すでに迷惑がっています。

 そのとき、私の隣に座っていた方が、小声で吐き捨てるようにつぶやきました。

「さっさと農薬かけたらいいんだよ」

 私はぎょっとしました。なぜなら、横に座っていた方は、前で相談している農家の4倍もの期間、無農薬農業を続けてきた筋金入りの無農薬農家さんだったからです。

 そこで、私は聞いてみました。

「おっしゃるとおりだと思うんですけど、ずっと無農薬でやってこられたのに、どうして農薬をかけろと言われるのですか」

「農薬は安全だよ。無農薬はオレにとっては生き方であって、安全のための無農薬なんて馬鹿のすることだ」とおっしゃいます。