(文:仲野 徹)
何でもいいから本を読みたい、意味なく読書を楽しんでみたいという人には格好の本だ。なんの目的がなくとも、ほとんど意味がなくても、本を読むということをこんなに楽しめるというのは、読書における醍醐味といっていいはずだ。
『奇妙な孤島の物語:私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島』というタイトルのとおり、50の孤島が紹介されている。「ドイツのもっとも美しい本」に選ばれただけあって、とても綺麗な本である。しかし、その印刷と造りは極めてシンプルだ。一つの島が見開きで紹介されていて、左側がマリンブルーの海に浮かんだ島の地図。地図の縮尺はすべて同じで、ページの縦横がおおよそ39キロメートルと27キロメートルになっている。
セントヘレナ島の場所に驚く
作者:ユーディット・シャランスキー 翻訳:鈴木仁子
出版社:河出書房新社
発売日:2016-02-26
まず、その1つを見ていただきたい。この地図をひと目見てどこかわかる人は相当な地理フリークか歴史フリークだろう。答えはセントヘレナ島である。いうまでもなく、あのナポレオン・ボナパルトが流刑され終焉を迎えた島だ。
セントヘレナ島がどこにあるかをご存じだろうか。それを示すのが、地図の左上にある小さな円だ(下の図)。この円は、孤島を中心に地球を投影した小さな地図、すなわち、孤島を世界の中心に置いた地図なのである。
右側のページには、島にまつる何らかのエピソードが書いてある。セントヘレナ島については、もちろんナポレオンを巡る話だ。そして、経緯度、面積、人口、大陸や近くの島までの距離、および、ごく簡単な年表といった、ごく簡単な情報が添えられている。
しかし、あったのかセントヘレナ島ってこんなところに。アフリカのアンゴラまで1850キロメートル、南米のブラジルまで3290キロメートル。堂々たる絶海の孤島である。