会社のお金、人、設備といった経営資源を使う以上、R&Dもリターンを期待されるれっきとした事業なのです。
エコベンチャーには深い「死の谷」が待っている
前にも述べましたが、新しいエネルギー技術開発は死の谷(Valley of Death)に陥る可能性が高く、大企業にとっては、事業化できるかどうか定かではない技術開発に長期にわたり経営資源を投入し続けなければならないハイリスク・ハイリターン事業なのです。
従い、技術開発の世界にも、リスクとリターンのバランスの取れたポートフォリオの構築が必要なのです。
つまり、本当に重要なコア技術の開発は自前で行いハイリスク・ハイリターン投資と位置づける一方で、派生技術の開発は完成に近い外部技術を獲得したうえで、社内の開発プロセスに取り込み、商業化の最後の仕上げを行うミドルリスク・ミドルリターン投資としてリスクを減らすアプローチです。
このように、技術開発のポートフォリオを構築することができれば、全体的なR&D部門のパフォーマンスが上がると考えます。
その際に、外部技術獲得のソーシングとして日系企業のR&D部隊が検討すべきは、米国のイノベーション・エコシステムから生まれてくる技術なのです。
ベンチャーと大手企業はウイン-ウインの関係になれる
勘の鋭い読者はピンとこられたかもしれませんが、このアプローチは、連載第5回のベンチャー企業の資金調達(図22)で解説しました、事業会社が自社技術の獲得を目的としてベンチャー企業に出資する戦略投資家のパターンなのです。
ただ単にお金だけを出す金融投資家と異なり、資金以外にも自社の持つR&D能力、ブランド力、販路・マーケティング力などを提供することよって技術の商業化に貢献できる戦略投資家、つまり大手企業は、ベンチャー企業にとって非常に貴重な存在なのです。
日系大手企業が欲しい技術を持つベンチャー企業と、ベンチャー企業が欲しい経営資源を持つ日系大手企業との間にはウイン-ウインの関係が成立し得るのです。

それでは、なぜ米国なのか?
それは半導体やIT産業などで証明した米国のイノベーション力のトラックレコードに加えて、お金の集まる所に技術も集まるからです。
世界中から年間3510億円もの資金が流入している米国のイノベーション・エコシステムを利用しない手はありません。
要は、日系のベンチャー企業や大手企業は、米国の“ふんどし”を借りて相撲を取る、もう少し上品な言い方をしますと、米国システムを“レバレッジ”にして必要な資金や技術を手に入れることを積極的に模索すべきではないでしょうか。
*27、28 = Opening day rosters feature 229 players born outside the US, MLB.com
*29 = サンテックパワー、Wikipedia
■これまでの連載とこれからの予定(変更の予定あり)
- 第1部 クリーンエネルギーで世界の覇権を取れ!
- 第1章 今のままでは日本は絶対に勝てない
- 第2章 100年に1度のエネルギー産業大転換
- 第2部 クリーンエネルギーの実像
- 第1章 化石燃料より安くせよ、激化する世界競争
- 第2章 ソーラー、風力、バイオの問題点と解決策
- 第3章 IBM、グーグル、インテルなどが続々参戦
- 第4章 ITの次はエネルギー産業の雄を目指すグーグル
- 第3部 グローバルビジネス最前線
- 第1章 大躍進する中国、投融資額では世界を圧倒
- 第2章 次世代の覇権目指し、手を握る米国と中国
- 第3章 日本の起業家たちよ、ナスダックを目指そう
- 第4章 最新エネルギー産業動向のインパクト
- 第4部 クリーンエネルギーと日本
- 第1章 世界のグリーン化は止まらない
- 第2章 日本の戦略
- 第3章 世界競争、待ったなし
あとがき