それは、米国社会の多様性だと考えます。多様性とは、「良いものは良い」と評価し、社会が受け入れるシンプルな価値観です。米国では、技術やアイデアの発案者の国籍・性別・人種が何であれ、アウトプットが優れていれば素直に評価し、称賛と報酬を与えます。
大リーグの繁栄とベンチャーが育つ仕組みは酷似
分かりやすい例が、野球のメジャーリーグです。メジャーリーグは米国の多様性社会システムの縮図です。
2009年の開幕戦メジャーリーグ登録選手の818人の28%に当たる229選手が米国国籍を持たない、15カ国から来た外国人選手でした*27。イチロー選手を含め、素晴らしい選手は国籍に関係なく素晴らしいのです。
逆に、国籍に関係なく世界中から一流選手を集められれば、リーグ全体がスキルアップし、盛り上がり、世界にメジャーリーグが広がり、ビジネスとしても成功するという発想です。
ですので米国では、野球選手であれ、ビジネスマンであれ、学者であれ、米国に貢献できる優秀な人材は米国人でなくとも歓迎され、米国社会に受け入れられるのです。これこそがアメリカンドリームであり、米国が“希望の地”(Land of Opportunity)と呼ばれるゆえんでしょう。
この社会の多様性が磁石となり、世界中から、あらゆる分野の最高の人材である「Best & Brightest」を引きつけ、彼らのアウトプットを社会に組み込み、その果実を享受してきたのが米国の1つの成功モデルなのです。
マイナーリーグの選手は半数が外国人
再び野球を例に出して恐縮ですが、メジャーリーグは、この米国が世界中の才能の原石を引き付ける磁場であることを示す典型的なモデルケースでもあります(図34)。
2009年シーズン開幕時に契約支配下にあるマイナーリーグ選手約7000人のうち、何と約半数に当たる3335人が外国人というデータがあります*28。
メジャーリーグというすべての野球選手の夢の舞台が、世界中からタレントを吸い寄せ、マイナー外国人選手の10人に1人も果たせないメジャー昇格という狭き門を競い合うことによって、リーグ全体のレベルが底上げされ、その結果また一段とメジャーリーグが輝くというサイクルです。

この構造は、世界中から優秀なタレントを引きつけ、世界で最強の資本主義経済で(時に馬脚を現しますが)、その腕を競わせるビジネスの世界と全く同じです。