大産油国間の協調にひびが入れば、原油価格は再び下落傾向になり、ムハンマド副皇太子にとって「泣き面に蜂」となる。ムハンマド副皇太子が失脚するかどうかは別にしても、彼に集中している権限が剥奪される可能性は十分に考えられる。その場合、誰がこれを担うことになるのだろうか。

テロの返り討ちに遭う危険性も

 長きにわたる空爆により焦土と化したイエメンは、今や「テロの温床」と化しつつある。

 3月25日、イエメン南部の首都アデンの軍の検問所で三度の自爆攻撃があり、民間人10人を含む22人が死亡した。過激派組織イスラム国(IS)が犯行声明を出したが、ISに加えて2009年から活動を続けている「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の勢力拡大も懸念されている。

 彼らがイエメンでの本拠地にしているのは、皮肉にもサウジアラビア政府が奪取しようとしていたハドラマウト県の県都ムカッラーだという(3月26日付毎日新聞)。イエメン政府からムカッラーを奪取したAQAPは港湾、行政庁舎、病院などを完全掌握して、数百人規模の戦闘員を常駐させている。サウジアラビア政府の思惑とは逆に、「ここを拠点にAQAPがサウジアラビア国内に大攻勢を仕掛けるのでは」との悪夢がよぎる。

 カダフィ大佐を排除して「アラブの春」を達成したかに見えたリビアは、その後、イスラム過激派の侵入等により治安状況が急激に悪化し、現在に至っている。日量160万バレルを誇っていた原油生産も同40万バレル程度と低迷したままである。

 サウジアラビアでこのような事態が起きないとはたして断言できるだろうか。