本稿は東京からの報告である。先日、突然来日した日本勤務経験のある旧知のロシア人と食事を共にした。彼の観察によると、東京での桜の開花が宣言されたその週、東京に集合したロシア人の数は半端じゃなかったそうだ。
もちろん、単なるロシア人ではなく、それなりにロシア政府に関係する人たちだ。周囲にロシア人がいないことを確認して、彼がそっと教えてくれた人々の名前は、筆者が知らない人物も多かったが、知る名はロシア政界で重鎮と言われるレベルの人たちも含まれていた。
東京に集合したロシア人たちの情報を我が友はどのように知ったのか。話題を彼自身の情報源に向けると、彼がその日の朝食を一緒にしたというアレクサンドル・パノフ元駐日大使の名前が出た(現在、モスクワ国際関係大学教授)。
そして、さらなる驚きの情報。ロシア人たちの一部は、日本政府、いや官邸の招待によるものだというのだ。どうやら、安倍晋三首相は、自身のロシア訪問の前に、現地の環境整備のため知日派ロシア人をかなり日本に招待しているようだ。
今年、日露関係は動く
その後、友人とは現在の日露関係という大テーマに話題は移っていったが、その議論の最中にも、何度もロシア大使館から電話が入り、どうも彼の来日目的もそう簡単なものではないように感じられた。
その彼の見立ては、「今年の日露関係は動く」というものだ。では北方領土問題解決か、と筆者がたたみかけると、なぜ日本人はすべての日露問題を千島列島から始めないと気が済まないのか、もっと大事な問題がいくらでもあるだろう、と言う。
まず友人が取り上げたのはウクライナ問題であった。安倍首相は2014年3月のG7で、最大1500億円を対ウクライナ支援に用意していることを表明した。
すでにいくつかのプロジェクトがJICA(国際協力機構)などを通して実現の方向にあるが、本年4月5日から来日予定のペトロ・ポロシェンコ大統領(日本政府による招待)の滞在中にも新しいプロジェクトへの支援が両国政府より発表される予定だ。
現在、ロシアはウクライナに対して日本円換算で3450億円もの債権を持っているが、ウクライナには返済の可能性はない。EUも金融支援に話が及ぶと、その動きは極めて慎重になる。
そこに登場するのが日本である。そしてウクライナに落ちる日本円を彼らが債務の返済として、ロシアに返せば、それは日本によるロシア支援にもなる。
端的に言えば、「ウクライナ問題を利用した日本政府のロシア救援作戦」と彼は考える。これを実行するには、日本、ウクライナ、ロシアという関係3国の密接な協力が必要であり、その作業はまさに桜の咲く現在行われている、というのが彼が大勢のロシア人知人を東京で見た結論であった。