バッグや靴を選んでいると、店員は『ゆっくり考えて下さい』と言って、そそくさと行ってしまいます。爆買いの訪日外国人客には手厚く接客して、日本人客には適当に、みたいな感じです」

 売り場は「爆買い客」優先の接客で、少額の買い物客である日本人は歯牙にもかけてもらえない。

 小売り業のみならず運輸業でも外国人観光客向けの特別なおもてなしが目につく。シンガポールから日本に旅行に来た筆者の友人、イ・ボーンさんが羽田空港で買ったのは、2200円で3日間乗り放題という訪日外国人客専用のレールパスだ(京急線の羽田空港国際線ターミナル駅~泉岳寺駅と、東京メトロ全線・都営地下鉄線全線が乗り放題)。

 こうした外国人向け周遊券は欧州などにもサービスとして定着しているが、日本のは格段に安い。イ・ボーンさんは言う。「もともと日本の交通運賃の料金設定は合理的だと思いますよ。それをここまでディスカウントしてくれるんですから、ありがたいですね」

 海外旅行に出向く人は、基本的に生活に余裕のある人たちだ。いわゆる富裕層にとって、短距離移動の交通運賃は割引があろうとなかろうとさほど大きな問題ではないだろう。だとしたらなぜ、ここまでの大安売りを展開しなければならないのか。

 国際観光マーケティングに詳しい人物に聞いたところ、最近の日本の“爆安事情”について次のように語ってくれた。

「私鉄各線は訪日外国人客に利用してもらおうと必死です。なぜなら沿線の人口が減り、運輸収入が減っているからです。中には、いつも電車がガラガラで廃線を覚悟しなければならないような私鉄もある。そこに現れたのが訪日外国人客です。どんなに割引をしてもかまわないから1人でも多くの人に乗ってもらいたいというのが本音でしょう」