食べものを美味しく食べるには、歯の機能が健全でなければならない。そのために食後こまめに歯磨きをするが、それでも虫歯になってしまう人はいる。健康診断などで「要治療」を宣告され、歯医者で歯を削られる。
ところが、こうした当たり前のような歯のケアには、じつは誤解も多く潜んでいるらしいのだ。たいていの人が歯のケアの仕方は小学校で習っただろう。だが、研究の進歩で常識が覆されることはよくあること。歯のケアに対する考え方は昔と変わっていてもおかしくない。
そこで今回は“食と歯”についての常識が、本当に正しいのかを知るべく、歯科医に話を聞くことにした。応じてくれたのは、埼玉県志木市で「ヒロキ歯科診療所」を開業する西野博喜氏。歯科学の最新の研究成果などに詳しく、その知識を患者の歯の治療や予防に役立ててきた。日本顎咬学会の指導医であり、また日本歯内療法学会の専門医でもある。
前篇では、西野氏に虫歯のしくみを聞いたうえで、虫歯は自然に治るのかという疑問に答えてもらう。後篇では、歯の治療や、日々の歯のケアの“正しい方法”について聞くことにしたい。
甘いものを食べると虫歯になる理由
――虫歯はどのようにして生じるのでしょうか。
西野博喜氏(以下、敬称略) 虫歯には、直接的な原因と間接的な原因があります。
直接的なものは口の中の常在菌です。そもそも常在菌は、外から入ってくる害のある菌が入ってこないように先に定着しているもの。人との共存共栄の関係をもっているのです。
しかし、常在菌には、自分の体から“接着剤”を出すミュータンス菌のようなものもあり、歯の表面に付いて「プラーク」という菌の集合体をつくっていきます。菌は単体でいるときは大したことありませんが、プラークになるとバリアを張るようになります。バリアの内側で菌はさらに増えていきます。
そうした菌たちが酸をつくって、歯の成分であるカルシウムやリンなどの物質を溶かし出すのです。歯からカルシウムやリンが溶け出る現象を「脱灰」といいます。一般に、虫歯とはこの脱灰の現象を指します。