写真右より マルクス・ヴァーレンベリ氏(賞設立者の令孫)、スウェーデン国王カール16世グスタフ、磯貝、西山、齋藤各氏(写真:Ulf Palm)

 昨年に引き続き、今年もノーベル科学賞の受賞者が日本から選ばれた。日本の科学における貢献が認められ、喜ばしい限りである。

 一方、少し前、9月28日にもう1つ、ノーベル賞同様、科学の分野でスウェーデン国王から授与された賞があることを知っておくべきだろう。その賞とは、「森林製品産業に貢献」した人物に与えられるマルクス・ヴァーレンベリ賞である。

 森林製品産業とは聞きなれない方もおられようが、紙パルプもその1つである。紙は最終製品であるが、その前に植林、育樹がなければ始まらない。したがって、賞の対象はそれも含まれる。

 もちろん、木造の建築法でもいい。マルクス・ヴァーレンベリ賞が、「森林製品産業のノーベル賞」と言われるゆえんである。

アジア初の受賞

 今年のマルクス・ヴァーレンベリ賞の授賞式は、同賞の歴史の中でも特筆されるべきものであったろう。えてして白人それもヨーロッパ、北欧に偏りがちな受賞者の中で、アジア初の受賞であった。

 東京大学大学院農学生命科学専攻科教の磯貝明教授、同・齋藤継之准教授、そして現在、フランス国立科学研究庁・植物高分子研究所(CERMAV-CNRS)で上級研究員である西山義春博士の3人に、2015年マルクス・ヴァーレンベリ賞は授与された。

 ゆえに、演壇には日章旗とともにフランスの三色旗が飾られた。授賞理由は「ナノセルロース製造におけるエネルギー効率の良い方法」である。

 磯貝教授らは、TEMP酸化触媒と軽い撹拌を組み合わせることにより、ナノセルロースを効率よく、木材繊維から取り出すことに成功した。この方式はすでに一部で工業化されている

 ナノセルロース(セルロースナノファイバーとも呼ばれる)は、「鉄の重さの5分の1で、鉄の強さの5倍」とも言われる素材で、将来その活用が大いに期待されている。