2015年マルクス・ヴァーレンベリ賞の受賞者たち。左から東京大学大学院農学生命科学研究科 磯貝明教授、マルクス・ヴァーレンベリ財団事務局長 カイ・ローゼン教授、西山義春博士(フランス国立科学研究所植物高分子研究所上級研究員)、東京大学大学院農学生命科学研究科 齋藤継之准教授(写真提供:カーボンニュートラル資源研究所・藤原秀樹)

 森林のノーベル賞と言われるマルクス・ヴァーレンベリ賞を、日本人が初めて受賞することになった。スウェーデンのマルクス・ヴァーレンベリ財団が、2015年の受賞者を東京大学の磯貝明教授と齋藤継之准教授、そしてフランス国立科学研究所植物高分子研究所の西山義春上級研究員に授与すると発表したのである。

 この賞の存在は日本ではほとんど知られてこなかった。実際、受賞者の決定を発表した記者会見場には私を含めて数人の記者しかおらず、大手メディアはいなかったようである。

 しかし今回、磯貝教授をはじめ日本人が3人受賞した意義は極めて大きい。

 とりわけ、国内で消費するエネルギーのほとんどを海外からの輸入に頼ってきた日本にとって、日本が実は世界でも類まれな森林というエネルギー資源大国であるだけでなく、その森林資源を最先端の構造・機能材料として使う研究で世界のリーダー的役割を担っていることがはっきり示されたからである。

 磯貝教授たちが今回受賞することになったセルロースナノファイバーの研究についてはJBpressでもたびたびご紹介してきた。木から取り出した非常に強靭なミクロの繊維は、環境に極めて優しいだけでなく、先端的な構造・機能材料として様々な用途が考えられている。

 時計の針を思い切って先に進めてしまえば、石油などから作られている私たちの身の回りにある製品が森林を原料とする製品に置き換わっている可能性がある。それほどに期待の新素材なのである。

 木から様々な製品が作られるということは、空気中の二酸化炭素で製品を作ることと言い換えることもできる。つまり、製品を作れば作るほど空気中の二酸化炭素を減らすことになる。地球温暖化対策の究極の形と言ってもいい。

 その最先端研究の現状と未来について磯貝教授にインタビューした。なお、インタビューには同賞の選考委員会シニアアドバイザーを務められている藤原秀樹・カーボンニュートラル資源研究所代表にも同席いただいた。藤原さんがJBpressの寄稿者の1人でもあることはご承知の通り。

森林から生まれる「環境に優しい先端材料」

1981年~2015年の実績(共同受賞者を含む)

川嶋 マルクス・ヴァーレンベリ賞の受賞は、日本、そしてアジアで初めてという快挙ですが、磯貝先生は予感はあったのですか。

磯貝 いや、全くありませんでした。実用化までにはまだまだ時間がかかるものなので・・・。

藤原 そもそもこの賞は、実用化されている、そして受賞者本人が現役であるという2つの条件を満たすことが必要でした。ただ、2013年からは先駆的・学術的な研究にも対象が広がっています。

 磯貝先生たちの研究は、既にいくつかの企業がTEMPO酸化セルロースナノファイバー製造のパイロットプラントを建てるところまできています。ですから、学術的な研究成果であると同時に実用化の一歩を踏み出していると見なされたのではないでしょうか。