6月22日から25日の4日間にわたって、カナダ西部の都市、バンクーバーで北米紙パルプ技術協会の主催による国際学会が開催された。テーマは、再生可能資源のためのナノテクノロジー。主役はセルロースナノクリスタル。セルロースナノファイバーは、北米、特にカナダでは主役の座にはない。

圧倒的な価格競争力を持つセルロースナノファイバー

 セルロースナノファイバーについては前稿で紹介した。木材からリグニンなどのマトリックス物質を除去した化学パルプを機械的に解繊して得る幅4〜20nm(ナノメートル)の軽量、高強度のナノ繊維である。

 これに対して、セルロースナノクリスタルは、化学パルプやコットンを60%濃度以上の硫酸や塩酸で処理して結晶部分だけを残したもの。幅は4〜10nm程度。形状は爪楊枝のような長さ/幅比で、強度的性質はセルロースナノファイバーと同程度と推測される(図1)。

図1 セルロースナノファイバー(左)とセルロースナノクリスタル(右)。倍率の違いに注意(立教大学、上谷博士提供)

 新しい素材のため、国際標準化に向けた検討の中で命名法に向けた議論が進んでいる最中であるが、最近は、セルロースナノファイバー(CNF)とセルロースナノクリスタル(CNC)を合わせてナノセルロースと呼ぶようになっている。

 CNCの研究開発は、大型製造テストプラントの建設と用途開発の両輪で60億円近い資金を投入しているカナダがリードしている。

 60%を超える高濃度の硫酸で処理し、中和し、洗浄して純度を上げるというプロセスを経るため、CNCはどうしてもコスト高になってしまう。このため、カナダの研究者は、それ以上のお金をかけない、水系で未修飾での使用を目指している。

 これに対して、筆者は、セルロースナノファイバーの最大のアドバンテージは、その集合体であるパルプが1kg50円で製造されるという圧倒的価格競争力であり、そのメリットを生かし化学修飾することで様々な樹脂や溶媒との組み合わせが可能になると考えている。