知恵も資源もある日本が優位になる時代の到来

世界をリードできるセルロースナノファイバーとは何か

2014.06.25(水) 矢野 浩之
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梅雨の湿った空気を吹き飛ばすように300人を収容する会場は熱気で溢れていた。

 2014年6月9日の午後。「セルロースナノファイバーは無限の可能性を持っている。日本の豊かな森林資源を活用するためにも、国家的プロジェクトとして取り組みたい」。ナノセルロースフォーラムの設立総会が、来賓として出席した松島みどり・経済産業副大臣の力強い祝辞から始まった。

植物の繊維から鋼鉄より軽くて強い素材が生まれる

図1 木材細胞壁中のセルロースナノファイバー(京都大学・粟野博士提供)

 セルロースナノファイバーは、鋼鉄の5分の1の軽さで、その7〜8倍の強度を有する幅4〜20nm(ナノメートル)のナノ繊維である(図1)。

 線熱膨張はガラスの50分の1。石英ガラスに匹敵する。こう書くと極めて特殊な繊維のように思われるが、この地球上に1兆8000億トンあると言われている木質バイオマス資源の約半分を占める、とても身近な素材である。

 木材や竹といった植物の細胞はセルロースナノファイバーが鉄筋となりリグニンがコンクリートの役割を果たしている。そのコンクリートを取り除いて、細胞一つひとつに解したものが、コピー紙の原料となるパルプである。

 我が国では、年間2000万トン近い紙用パルプが流通しているが、それらはすべてセルロースナノファイバーの集合体である。

 電子顕微鏡の開発によってナノの世界を見ることができるようになると、植物細胞壁が均一な結晶性のナノ繊維でできていることが知られるようになった。

 京都大学の桜田グループによるX線解析からは結晶弾性率は鋼鉄の3分の2の140GPa(ギガパスカル)と見積もられた。カナダ・紙パルプ研究所のペイジ(Page)氏は、パルプを1本引っ張って1.7GPaの強度(自動車用鋼板の5倍)があることを30年も前に報告している。

 同じ時期に、楽器用木材の研究では、細胞壁中におけるセルロースナノファイバーの配列(配向)が、用材としての好適を決めていることが報告されている。

 しかしながら、それを木質バイオマスから抽出し、ナノ繊維として利用するという研究が盛んになったのはナノテクノロジーが言われ出した2000年代に入ってからである。ナノ素材としての研究の歴史は、まだ10年ほどと言ってよい。

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矢野 浩之 Hiroyuki Yano

京都大学 生存圏研究所 生物機能材料分野 教授、農学博士

 

長野県松本市出身。1982年3月、京都大学農学部林産工学科を卒業。84年、同大学大学院農学研究科修士課程林産工学専攻を修了。

 

1989年に論文により農学博士を取得。86年から京都府立大学農学部助手、92年から同大学講師を務める。98年に京都大学木質科学研究所助教授に就任。2002年に秋田県立大学木材高度加工研究所客員助教授。2004年より京都大学生存圏研究所教授。主にバイオ系ナノ材料の研究・開発に力を注ぐ。2000年から植物の基本骨格物質となるセルロースナノファイバーを用いた材料開発を進める。

 

同素材は、鋼鉄の5倍以上の強度を誇る太さ4-20ナノメートルのバイオナノファイバーであり、IT機器や自動車、医療機器など幅広い分野で実用化に向けた研究・開発が進められている。

 

日本木材学会や日本材料学会、セルロース学会などに所属。ナノセルロースフォーラム会長。1989年に日本木材学会奨励賞、2005年にセルロース学会林治助賞、2009年に日本木材学会賞を受賞している。

エネルギー戦略

20世紀の社会を築き、支えてきた石油。しかし世界的な環境意識の高まりの中で、石油依存社会の限界が明らかになりつつある。石油はいまどうなっているのか。石油社会の次を築き、新世紀を切り開くイノベーションは何か。その最先端の姿をリポートする。

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