知恵も資源もある日本が優位になる時代の到来

世界をリードできるセルロースナノファイバーとは何か

2014.06.25(水) 矢野 浩之
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 しかし、この10年の動きは目覚ましい。軽量、高強度、低熱膨張といった優れた特性を示すセルロースナノファイバーは、次世代の大型産業資材あるいはグリーンナノ材料として注目され、2004年以降、論文発表や特許出願はうなぎ上りに増えている。

透明基盤から自動車、人口血管まで用途が幅広い高機能素材

 中心となっているのは、森林資源が豊かで製紙産業が盛んな北欧、北米、そして日本である。最近は、中国のキャッチアップも無視できなくなっている。2011年からは、フィンランド、カナダ、米国の主導で国際標準化の議論も始まり、まさに国家レベルでの競争の様相を呈している。

 セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル(パルプやセルロースナノファイバーを高濃度の硫酸で処理して得るセルロース純度の高い結晶性素材)の、高比表面積、可食性、軽量・高強度、低熱膨張性、生分解性、生体適合性などの特徴を生かし、様々な用途開発が進められている。

 可視光波長(400~800nm)に比べ十分に細いセルロースナノファイバーは可視光の散乱を生じないため、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの透明樹脂を、その透明性を大きく損なわずに補強できる。

 高強度で低熱膨張、しかも自由に曲げることができる透明の繊維強化材料である(図2)。有機ELディスプレーや有機薄膜太陽電池の透明基板として研究開発が進んでいる。

図2 セルロースナノファイバー補強透明材料(左)とそれを基板に用いた有機EL発光素子(右)(写真提供:筆者)

 TEMPO*触媒を用いた酸化処理により幅10nm以下にまで解繊したセルロースナノファイバーのフィルムは、それだけで高い透明性を示す。適度な透湿性を保ちながらPETPVCの100分の1以下の酸素ガス透過性を示すことから、包装容器のコーティング素材として検討されている。

*2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカルの略称

 軽量・高強度繊維の特性を生かした構造用途への検討も進められている。ナノファイバーシートにフェノール樹脂を注入後、積層、硬化すると繊維率約90%で鋼鉄の5分の1の軽さで鋼鉄なみの強度の成形体が得られる。

 また、化学変性したセルロースナノファイバーを熱可塑性プラスチックに10%混ぜると、強度は2~3倍向上する。目指す用途は、軽量、高強度の特性が求められる自動車など輸送機用の構造部材である。

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矢野 浩之 Hiroyuki Yano

京都大学 生存圏研究所 生物機能材料分野 教授、農学博士

 

長野県松本市出身。1982年3月、京都大学農学部林産工学科を卒業。84年、同大学大学院農学研究科修士課程林産工学専攻を修了。

 

1989年に論文により農学博士を取得。86年から京都府立大学農学部助手、92年から同大学講師を務める。98年に京都大学木質科学研究所助教授に就任。2002年に秋田県立大学木材高度加工研究所客員助教授。2004年より京都大学生存圏研究所教授。主にバイオ系ナノ材料の研究・開発に力を注ぐ。2000年から植物の基本骨格物質となるセルロースナノファイバーを用いた材料開発を進める。

 

同素材は、鋼鉄の5倍以上の強度を誇る太さ4-20ナノメートルのバイオナノファイバーであり、IT機器や自動車、医療機器など幅広い分野で実用化に向けた研究・開発が進められている。

 

日本木材学会や日本材料学会、セルロース学会などに所属。ナノセルロースフォーラム会長。1989年に日本木材学会奨励賞、2005年にセルロース学会林治助賞、2009年に日本木材学会賞を受賞している。

エネルギー戦略

20世紀の社会を築き、支えてきた石油。しかし世界的な環境意識の高まりの中で、石油依存社会の限界が明らかになりつつある。石油はいまどうなっているのか。石油社会の次を築き、新世紀を切り開くイノベーションは何か。その最先端の姿をリポートする。

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