出口の見えない不況の中で、消費者の財布のヒモは一向に緩む気配がない。節約志向が定着し、百貨店や大手スーパーの売上高が右肩下がりのカーブを描いているのはご存じの通り。

 こうした現象は、高額な衣料品や食品だけでなく、我々に身近な書籍にも及んでいる。世に言う「出版不況」である。

 今回は、逆風にさらされる出版・書店業界で、最近とみに注目を集めている現象に焦点を当てる。キーワードは、店員の「ソムリエ化」である。

出版業界で開催された「カリスマ書店員を囲む会」

 9月初旬の週末、都内の居酒屋で総勢50名程度が参加した懇親会が開かれた。参加者の大半は大手、中堅・中小出版社の営業、編集担当者だ。

 ここまでは出版業界のイベントとして珍しいことではない。だが、招かれた数人のゲストが特殊だった。そのゲストとは、地方書店の店員と店長たちである。

 なぜ彼らが招かれたのか。それは、彼らが「売れ筋の書籍を見出す目利き」(中堅出版社の営業担当者)であり、時には書籍の売れ行きを左右する存在であるからに他ならない。いわゆる「カリスマ書店員」なのである。

 以前、当コラムでも触れたが、1990年代初頭のピーク時に全国で約3万店あった書店の数は現在、その約半分の1万5000店にまで減少している。「電子書籍の普及が進めば、今後10年程度で書店数は約5000まで減少する公算が大」(大手出版社)との見通しもささやかれる。

 そんな中、生身の人間であるカリスマ書店員がどれほどの力を持つのか。

 大手出版社の営業担当幹部によれば、「毎月発刊される膨大な数の書籍の中から売れ筋を見出して棚づくりの提案ができる上に、着実に販売実績を残している」という。実際、この懇親会に参加した書店員が早くから売り出しに注力し、数十万部単位の販売記録を残した小説やビジネス書は、ここ数年で多数に上るのだ。

「お薦め」の棚がなくなったCDショップ

 この懇親会に先立つこと数週間前、筆者は都内の大型CD/DVDショップに足を運んだ。執筆用の資料を買うのが主目的だったが、原稿料が入った直後というタイミングでもあり、自身の趣味用に大量のソフトを購入する腹積もりだった。

 この大型店はかねて店員の「お薦め商品」に外れがなく、筆者はいつも店内に数時間滞在しては「大人買い」を楽しんできた。

 だが、先般訪れた際、店の様子が全く違っていた。折しもこの大型店は売上高の急激な減少に伴い、店舗網の縮小、すなわちリストラの真っ最中にあった。

 整然としていた陳列棚は乱れ放題であり、筆者や他のヘビーユーザーが楽しみにしていた「お薦め」の棚もなくなっていた。店員に尋ねたところ、「リストラ優先で店舗管理が疎かになっている上、かつての有名店員も退職してしまった」という。