米アップルの多機能情報端末「アイパッド(iPad)」の国内販売が開始されたのはご存じの通り。テレビや新聞など主要メディアの多くは、iPadが雑誌や漫画など既存媒体の在り方を変えると盛んに報じている。

 今後、アップル以外からも多くの多機能端末が登場する予定で、雑誌や書籍の在り方は確かに大きく変わりそうだ。だがこうした中、「多機能端末が発達・普及したら、廃業は必至」と戦々恐々とする業界がある。

 それは全国の書店、特に中堅中小の業者だ。特に、多機能端末の登場が後押しする「電子教科書」の普及が経営を直撃する恐れが高い、というのがその理由である。

官民挙げて電子教材の普及を後押し

 5月27日、ソフトバンクやマイクロソフト日本法人が中心となり、小中学校向けの電子教材・教科書の普及を図る「デジタル教科書教材協議会」の設立が発表された。ソフトバンクのほかに、毎日新聞やベネッセ等の大手企業も名を連ねた。

 同協会は今年7月から本格稼働し、電子教材の普及に向けた検討やハード面での実証実験を行うとしている。

 ソフトバンクの孫正義社長はツイッター等で電子教材の普及の必要性を強く訴えていた。実際に、電子教科書の普及は急速に進みそうな気配である。

 教科書を手がける出版社の間では、既に教科別に数種類の電子教科書が発行されている。そのうえ、「電子教科書向けの業界側窓口を共同で立ち上げる動きが出ている」(編集関係者)とされ、供給側の準備作業も着実に進みつつある。「著作権などの面で、一般書籍よりも電子化への対応が比較的容易」(別の編集者)という側面もこれを後押ししそうだ。

 また、昨年末には、原口一博総務相(当時)が2015年までに電子教科書を小中学校に配備する「ICT維新ビジョン」を公表したこともあり、電子教科書・教材の普及は官民挙げての一大プロジェクトになる公算が大きいとも言える。

 シンクタンクや様々な専門家の間では、今後10年程度で電子教科書が2000億~3000億円の市場規模に成長するとの見通しも聞かれる。

教科書の販売は「最後の砦」

 だが、こうした動きに警戒感を強めているのが書店なのだ。特に、地方都市で店を構える小資本の地場書店、あるいは小さな商店街を地盤とする中堅中小規模の書店が警戒心を強めている。

 「不況や少子化の影響で、雑誌や一般書籍の売り上げが毎年落ち続けている。その中で、教科書販売が最後の砦となっている」(東海地方の書店)。そのため、同協議会の議論や原口総務相の構想の先行きに強い関心を示しているのだ。