──なぜ介護殺人・介護自殺に追い込まれてしまうのでしょうか。
和氣 介護殺人は、男性に多く、無職の方が多いです。今、介護殺人と呼ばれる60歳以上の被害者が親族によって殺害される事件は、過去17年の間で、少なくとも672件は起きているといわれています。
その主な原因は、介護疲れと将来への悲観です。その重すぎるストレスが自分に向かうと、自殺に追い込まれるのだと思われます。極論を言えば、介護離職することで、いずれは「殺すか死ぬか」まで行きついてしまうのです。
――それ以前に、経済的に追い込まれることは、容易に想像できてしまいます。
和氣 離職して収入源が断たれれば当然、経済的にひっ迫します。生活費、家賃、そのた介護保険サービスを利用していればその費用も必要です。最初は親の年金や預金、自分の預金を切り崩していってもいずれ不足し、自身の将来の生活に大きな損害を及ぼします。
――肉体的負担、精神的負担、ビジネススキルの低下について教えてください。
和氣 介護離職をして収入源が断たれると、介護保険サービスの利用を控える選択をしたり、仕事をしていない分、日中に要介護者の身体介護などを担ってしまったりと、肉体的負担が増えます。
また離職すれば社会との接点が持てなくなります。ケアスタッフとも要介護者を通しただけの関係になりがちですし、特に認知症などを患っている要介護者との生活は、一般的なコミュニケーションが難しくなるため、精神的に追い詰められるケースは少なくありません。
仕事は、インターバルが長ければ長いほどスキルも低下していきます。再就職したところで、年齢的にも新しいことを覚えたり、以前のスキルを思い出したりすることに時間がかかり、以前の自分との違いを実感し自信を失ってしまうことがあります。
介護をとるか、仕事をとるか
――すでに介護の必要に迫られている人もいると思いますが、介護離職を避けるためのポイントはありますか。
和氣 まずは自分の役割を正しく認識し、自分の人生を最優先で考えること。「仕事を辞めるか、介護を辞めるか?」の究極の選択には、迷わず「介護を辞める」をとることが重要です。
――介護を辞めて仕事をとる選択には、勇気が要るように思われますが・・・。
和氣 「介護をしない」という選択も、責任のある介護者としての判断です。非道なことではありません。むしろ逆です。介護は自分ではない人の人生を背負うことです。自分の人生の基盤を失えば、まさに共倒れになってしまいます。
要介護者は法から、ケアスタッフから、あらゆるものから守られていますが、介護者は誰からも守ってもらえないと思ってください。自分の人生を守れるのは自分だけ。まずは自分の人生を最優先で考えてください。
介護離職を避けるための具体策
――介護離職を避けるためには、具体的にどのような行動を起こせばいいのでしょうか?
和氣 次の3点を行うことをお勧めします。