空腹でない状態、つまり食を得て満腹という状態では、報酬を求めて積極的になる必要がなくなります。ですので、覚醒が低くなるわけです。実は、こうした報酬を求める気持ちにも、オレキシンが関わっていると考えられます。
まとめると、体内時計による覚醒出力の一時的な低下、血糖値上昇によるオレキシンなどの物質をつくる神経細胞の活動の低下、それに報酬を得たあとの満足状態。これら三者が相まって眠くなるわけです。
――それぞれの要素の影響は、どれが強いといえるのでしょうか。
櫻井 それは難しいですね。しかし、ほぼ同等と考えておいてよいと思います。
「脳に血が行かなくなるから」はウソ
――巷では「食後、眠気に襲われる」ことについて、他にもいろいろ理由がいわれています。例えば「消化のために胃に血液が集まるから脳に血が行かなくなって眠くなる」とよくいわれますが、これはどうなのでしょうか?
櫻井 それはありえません。脳という臓器は、最後まで守られるものであり、脳の血流はなによりも確保されるべきです。脳の血流が落ちるはずがありません。
――もう1つ、巷の説では、食事をすると「セロトニン」という体内物質が出て、満腹感を司る脳の満腹中枢を刺激するとともに、セロトニン自体が精神安定作用ももっているため同時に眠気をもたらすという話も聞きます。これはどうでしょうか?
櫻井 食事の内容によってセロトニンが増えるかというと、トリプトファンというアミノ酸を含むものをとると増えるとはいわれています。しかし、脳内のセロトニンをつくるニューロンの働きはもともと活発で、食事をしたからセロトニンの量が急に増えて、それが脳に影響するということではないと思います。
そもそもの問題に「睡眠不足」が
――直感的には、昼食後、覚醒に関わる要素が低下することよりも、もっと積極的に体が眠りを求めているような気もするのですが・・・。
櫻井 それは、根本的な原因として「睡眠不足である」ということがバックグラウンドにあるからだと思います。前日に十分、眠ることができていれば、いま言ったような要素があっても、昼食後そう眠くなることはありません。
――昼食後、眠気に襲われるのも、睡眠不足がベースにはあるというわけですね。
櫻井 はい。これは根拠のある数値ではなく、概念的な話として捉えていただきたいのですが、覚醒のレベルが最大100として、50以下になると眠るとします。すると、体内時計による覚醒の出力の昼間の一時的な低下をマイナス10、オレキシンの低下をマイナス10などとして、これに寝不足がさらにマイナス40加われば、「100-10-10-40=40」となって、眠ってしまうわけです。眠気は積み重ねによるものと考えていただければと思います。
――では、どうしても昼食後に眠くなったときはどうしたらよいか、後篇でお聞きすることにします。(後篇はこちら)