櫻井武氏(以下、敬称略) まず、体内時計による覚醒系への出力が、午後の2時や3時ごろ、一時的に落ちるということがあります。生体のリズムが実際そうなっています。
人間は昼行性の動物であり、昼間に覚醒を高めています。とはいっても、昼間ずっと高いわけでなく、波があります。午後の2時、3時ごろ、覚醒の出力の一時的なくぼみが起きるのです。朝や夜には、この出力は高まっているので、朝食後や夕食後にはあまり眠気を感じません。
――どうして午後2時から3時ごろ、覚醒への出力が低下するのでしょう?
櫻井 たいていの動物は昼間でも寝たり起きたりしています。人間はというと、昼間ずっと起きて、夜ずっと寝る「単相性睡眠」をとる動物です。多相性睡眠をとる動物をみても、活動期に入った後と休眠期に入る前に覚醒は多く見られ、中間の部分では睡眠をとることが多くなります。人は基本的には活動期である昼間ずっと起きていますが、昼過ぎに一時的に覚醒への出力が低下し、昼間に眠ることもあるわけです。
――食後の時間と、覚醒出力の一時的な低下の時間が重なっているわけですね。食事そのものも体に影響しているのでしょうか。
櫻井 ええ。食事との関係もあります。正午ごろ昼ごはんを食べますね。すると、血糖値が上がります。血糖値が上がると覚醒が落ちるのです。これがもう1つの要因です。
――なぜ、血糖値が上がると覚醒が落ちるのでしょうか。
櫻井 例えば、「オレキシン」という物質にも関係しています。オレキシンは、覚醒をもたらすことにかなり特化した物質です。
食後は血糖値が上がりますが、オレキシンをつくる神経細胞の活動は、血糖値が上がるとすぐに対応して変動し、落ちていくのです。オレキシンがあまりつくられなくなり、覚醒が低くなるので、眠気が増していきます。
――食後の満腹感も、眠気と関係しているような感覚をもちます。
櫻井 満腹であるという状態も眠気に作用します。満腹と逆に、空腹のときは食を求めるモチベーションが高くなっている状態といえます。肉食獣などがお腹を空かしているときに積極的に餌を求める行動から分かるように、報酬を求めようとするとき、覚醒は高くなります。みなさんも、お腹が空いているときは眠れないという経験をされたことがあるのではないでしょうか。