その言葉通り、広大な国土に多くの民族を抱える同国政府が、地方開発や少数民族対策という観点からネットワークの拡大を目指した結果、現在、全7州7管区のうち、チン州をのぞくすべてが鉄道ネットワークでつながっている。
「貧しい人の乗り物」
しかし、線路や車両の維持管理や更新作業よりも新線建設が優先され、予算も新線につぎ込まれたため、既存の路線は急速に老朽化が進んだ。
特に線路の維持管理については、保線技術が未熟である上、作業自体がほとんど行われなかったことから、線路は一見してすぐ分かるほどうねったりたわんだりしている。脱線や衝突事故は年間650件以上に上り、遅延も日常茶飯事。
乗り心地はと言えば、鉄道運輸省の職員ですら「あばれ馬に乗っているよう」だと言うほど、上下左右にひどく揺れる。
こういう状態であるため、少しでも懐に余裕のある人は長距離バスや自動車、あるいは飛行機で移動するようになり、鉄道は「貧しい人々が乗るもの」だとして甚だ人気がない。
現在のタン・テー大臣は、「毎日400本以上運行しているにもかかわらず、ほとんどの路線で収益が上がっていないか、赤字の状態」だと打ち明け、危機感を募らせる(第6回参照)。
日本政府が2013年6月より国際協力機構(JICA)を通じて派遣している鉄道政策アドバイザーの東充男氏によると、全37線区の中で1日の利用者が2000人を超えているのは9線区だけだというのだが、実はこの1日2000人というのは、かつて日本で線区を廃止するかどうか判断する規準とされていた人数だという。
東氏は、「鉄道は、高速で大量に人やモノを運ぶ時にはメリットを発揮するが、量が少ないと効率が悪い」とした上で、「幹線鉄道のサービス向上と共に、1日1~2往復程度しか走っていないローカル線の運営の仕組みをどうすべきか、鉄道政策全体の検討が必要」だと指摘する。
「このまま放置すると、この国の鉄道はあと5~10年のうちに誰にも使われなくなる」――。現状に危機感を抱いたミャンマー政府が、鉄道を近代化し、旅客や貨物の輸送にとって重要な経済基盤インフラとして生まれ変わらせるべく日本に協力を要請してきたのは、こんな背景からだった。