私は、月に一度与論島に小児科医として診療に出かけている。「生理のように来る男」と言われて、この島に通い始めて、すでに17年になる。もう第二の故郷といってもよいのかもしれない。

 ただ、この文章をお読みの方で、与論島と聞いて、すぐに場所がイメージできる方はそれほど多くないのではと思われる。

 与論島は、目の前に沖縄がある鹿児島県の奄美諸島の最南端に位置する島である。1972年の沖縄返還の前までは日本の最南端の島として観光で栄えた島でもある。

 人口は5000人余り、昔盛んだった観光と、農業(主にサトウキビと牛を中心とした牧畜)が主な産業の島である。こういった島にありがちなことではあるが、残念なことに高齢化が進み少しずつ人口は減っているそうである。

 この島に行くには鹿児島空港、那覇空港からそれぞれ1日1便、週に3便の沖永良部島経由奄美大島行の空路か、鹿児島発ないし那覇発の1日1~2便の航路しか公共交通機関はない。したがって、私の住んでいる千葉県松戸市から診療に行くのは早朝に家を出て、9時の羽田発那覇行の飛行機に乗り、那覇で乗り換えて、14時頃に与論島に到着する半日がかりの旅になる。

 このような「不便な島」に自分のクリニックを休診にして、経済的なデメリットを承知して出かけるのには訳がある。それを一言でいえば、この島に自分の理想の社会を投影しているということであろう。「足る」を知る生活、お互いが島の住人として認め合い、尊重しあう気持ちとそこからくる寛容な心、こういった現代の日本で失われつつある美徳が残っているところである。