先日、病棟で勤務中している最中に、引出し整理をしていた看護師さんが急に声を上げられました。
「あ!これ〇〇さんのだ!」
引出しから出てきたのは蓋に持ち主の名前が書かれた電子辞書。
震災の時、ご家族を心配してご自宅に戻り、津波にのまれてしまった看護師さんの持ち物だ、と、周りの方が教えてくれました。
ほんの一瞬の沈黙の後、
「あ~ぞわぞわした~」「しまっとこうね」
引出しは何事もなかったかのように閉められ、すぐに通常業務の空気が戻ってきました。次の瞬間に誰かが入ってきても、おそらく何も気づかなかったに違いありません。
しかし私には、その瞬間のかさぶたを剥がれたような空気が忘れられません。ああ、震災の傷というのは、こういう形に潜んでいるのだな、そして私がそれを共有することは決してないのだな、ということを改めて感じました。