伝統食として「イナゴ」や「ハチノコ」に慣れ親しんでいる人と、昆虫そのものに触れる機会が少ない人が混在する日本では、世代や地域による昆虫(食)の度合いによって捉え方も異なるだろう。もしかすると、海外の人が寿司や刺身といった「生魚」に抵抗があったように、要は“食わず嫌い”なのかもしれない。

 食用昆虫科学研究会の調査によれば、牛や豚、馬といった大型動物と昆虫を比較したとき「昆虫を殺すことへの抵抗感は低いが、食べることには抵抗感を感じる」といった回答が多かったという。よく食べているにもかかわらず、殺したくない動物。殺しやすいにもかかわらず、食べることに抵抗がある昆虫。この矛盾ともいえる感情と私たちはどう付き合っていくべきなのだろうか。

昆虫食の安全性を確保する動きも

 日本は、古くから昆虫食文化がある国だ。しかしながら、その文化が薄れつつある背景を、水野氏は「西洋の食文化が入り、さらには大量生産・大量消費の時代のなかで、完全養殖が確立していない昆虫は食材として影を潜めたのではないか。次第に見慣れなくなった昆虫に対し、抵抗を感じる人も増えたのだろう」とみている。

 口にするか否かは、もちろん個人の選択によるが、栄養価も高く、昆虫の種類と調理法によっては美味しいとなると、あとは食材としての“お墨付き”がほしいところ。

 ヨーロッパでは、欧州食品安全機関(EFSA)が食用昆虫のリスクアセスメント実施に向けてデータ収集を行っているほか、オランダでは昆虫養殖協会(VENIK)が、 食品の安全性を確保するための衛生管理手法であるHACCP規格に準拠した食用昆虫の生産ラインを規定している。昆虫を大衆的な食材としていく上では、食品としての安全性を担保する社会的な整備が不可欠だ。

 昆虫食のリスクについて、水野氏らは、加熱による衛生管理を呼びかけている。ほかの食材と同様、アレルギーリスクがあることや、毒をもつものなど食べると害を及ぼす昆虫がいることも忘れてはいけない。日本には昆虫食に対する知恵がある。食が飽和する日本で「昆虫はいつか食料に困ったら食べるもの」と隅においているのは、もったいないのではないだろうか。