「食用昆虫:食料および飼料の安全保障に向けた未来の展望」と題されたこの報告書(以下、FAO報告書)によると、世界中で食用とされる昆虫は1909種類(2012年発表の論文に基づく)。そのうち、最もよく食べられている種類は、カブトムシ、クワガタ、カミキリムシなど多くの昆虫が属する「甲虫目」で全体の31%、約600種類を占めている。日本でおなじみのハチやイナゴがダントツではないことは、ちょっと意外に思うかもしれない。

世界で食用とされる昆虫の種類
(参考:FAO「Edible insects: future prospects for food and feed security」をもとに筆者作成)

 日本で唯一、昆虫食を科学的に研究し、普及展開を推進するNPO法人がある。「食用昆虫科学研究会」だ。

水野壮(みずのひろし)氏。NPO法人食用昆虫科学研究会 副理事長。農学博士。日本科学未来館で勤務した後、麻布大学教育推進センター講師、フェリス女学院大学非常勤講師およびサイバー大学特任講師を勤める。「ニコニコ超会議3」「サイエンスアゴラ」といったイベントへの出演や、ウェブマガジン「SYNODOS‐シノドス‐」での情報発信等、幅広く昆虫食普及活動を行っている

 副理事長を務める水野壮氏は、昆虫の生息域にもよるが、国や地域、宗教によって昆虫食事情はかなり異なると話す。特にアジアは、昆虫食の歴史が古い地域という。三橋淳著『虫を食べる人びと』(平凡社)によると、「熱いアジアの昆虫食」と題された章では、韓国、中国、タイ、ベトナム、ラオス、ミャンマーなどが食虫の盛んな国として挙げられ、昆虫の種類でみると、アジア各国でよく食べられているのは、バッタの類とある。

 ラオスでは、FAOの支援のもと、2010年より食用昆虫の養殖を開始。ラオスやタイの大学農学部では、コオロギなどの養殖技術の研究開発と教育が行われるなど、昆虫食が産業として定着していることがうかがえる。

 そんなアジアのなかで「日本は、昆虫を食べるという感覚から遠ざかっている」と水野氏は話す。