近未来の「フランス・イスラム政権」、小説家ウエルベック氏新作

フランスがイスラム化する近未来を描いたウエルべック氏の新作『Soumission(屈服)』〔AFPBB News〕

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 『屈服』の舞台は2022年。現オランド大統領の次の大統領の任期が終わるころの話だ。小説には、実在の人物が軒並み登場。オランド政権は12年に始まり、フランス大統領の任期は5年なので、確かに22年は大統領選挙の年だ。

 極右と言われている 国民戦線(Front National)は、現在、実際にどんどん力をつけていている政党で、2014年のEU議会選挙では25%もの得票を得て、大躍進を果たした。党首はマリーヌ・ルペン。22年には、小説の中でも政権奪取に励んでいる。

 2022年の総選挙。国民戦線のますますの伸長を防ぐため、社会党と中道保守が組んで、ルペンに対抗するという裏技に出る。しかし、それによりパリは混乱に陥ってしまう。

 フランスの大勢のイスラム教徒たちは、誰に投票してよいものかと途方に暮れる。左派中道連盟? 同性の結婚を認めたような党を支持することはできない。右派の国民戦線? 彼らは、イスラム教徒を追い出そうとしているのだ。そこで彼らは結論を出す。イスラムを信奉する政党を作るしかない。

 その彼らがフランス政権を奪取し、イスラム原理主義の国を作る。フランスは世俗主義であることを止め、イランのように最高指導者を持つ一夫多妻の国になるのだ。宗教の復活。無神論者も、世俗主義者も、フランス人の誇りであった共和国も、すべては滅ぶ運命だ(ZDF [第2ドイツテレビ] のインターネットのニュースページより)。

 そして、1月7日、この小説の売り出されたその日、パリのシャルリ・エブド紙がイスラムの武装過激派に襲われ、計12人が射殺された。同時に、ユダヤの食料品店も襲われた。

シャルリ・エブドの風刺画は報道の自由か、挑発か?

 シャルリ・エブド紙というのは、よく預言者ムハンマドを戯画化しては、物議を醸していた新聞だ。私は、ウエルベック氏の新作の発表の日に合わせて、このテロが実行されたのではないかと、本気で思ったほどのタイミングだった。

 テロの起こった当日の同紙では、煙草をくわえ、酩酊したようなウエルベック氏の戯画が第1面に載り、吹き出しは「2015年、私は歯を失う。2022年、断食をする」となっていたのだ。

 実は2011年、彼の『プラットフォーム』が上梓されたとき、これと非常に似たようなことが起こっていた。『プラットフォーム』はタイのセックスツアーを扱っている。

 何の望みもなかったフランスの若者が、タイで不毛なセックスに浸っているうちに、フランス人女性と知り合い、人生が急展開していく。

 そして、その女性と、もう1人のパートナーと共に、タイにセックスツアー専門の旅行社を立ち上げようと準備しているところに、イスラムの過激派によるテロが起こり、レストランが大破するのだ。その事件で恋人のフランス人女性を失った主人公は、精神の闇に落っこちていく。