新年の最大の国際ニュースは残念ながら、過激な思想に染まった3人のフランス人イスラム教徒による一連のテロ事件となってしまった。
これに対し1月11日に組織された、“Place de la République”(共和国広場)を中心とするパリだけでも最大160万人におよぶ史上最大となったデモ行進は、“Marche Républicaine”(共和国の行進)と名付けられ、フランスや欧州のみならず世界の人々を団結させることになった。
かつてパリにおいて中東について学び、多くのフランス育ちのアラブの友人と長年にわたって交友関係を維持してきた筆者にとって、犯罪者となったフランス生まれの若いイスラム教徒の心理も、言論の自由を叫ぶ大多数のフランス人の気持ちも全く他人事ではない。
本稿では、表現の自由という価値への挑戦と、それに対する抗議の大規模デモという見方を超えて、過激なイスラム主義に対するパリ、ロンドン、カイロの3都市における最先端の認識を重層的に取り上げつつ、私たちが直面する課題の行方とその処方箋を考えてみたい。
イスラム教徒にとっても深刻な脅威に
フランスにおけるイスラムが大きな問題となってから、すでに数十年になる。当初、1980年代から90年代までのフランスにおけるイスラムという問題は、テロの問題というよりも多分にフランス国内の社会統合に関わる問題であった。
それはフランス革命以降、フランスという国家を成り立たしめている自由、平等、博愛、世俗主義といった共和国の普遍的理念をフランスのイスラム教徒がはたして共有できるのかという国家と社会の統合問題であった。例えば、公教育施設において女子学生がベールを着用できるのか否かといった問題は、こうした社会問題の象徴の1つであった。
しかし今や、過激なイスラム主義をめぐる国際情勢と、経済成長の鈍化を背景としたフランス社会の硬直化によって、フランスのイスラムという国内問題という枠組みはもはや過去のものとなりつつある。