「親が亡くなり、兄弟姉妹はおらず、子供も孫もいないファミリーレス(家族なし)の人があふれる本格的な『ファミレス』社会がやってくる」
「日本経済新聞」(2014年6月28日付)のインタビュー記事で、NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」の樋口恵子理事長は、「少子化と独身化の先陣を切る現在の50代が高齢になったときにどんな問題が生まれるか今から備える必要がある」と強調する。7月15日厚生労働省が公表した2013年の国民生活基礎調査によれば、老老介護(介護が必要な65歳以上の高齢者がいる世帯のうち介護する人も65歳以上)の世帯が初めて5割を超えた(51.2%)。
高齢者のいる世帯と言えば、少し前までは3世代だったが、今や1位はおふたりさま老夫婦、2位におひとりさま、3位に未婚の子供と住む高齢者世帯だ(高齢者の核家族率は2000年の61.3%から2013年には76.5%)。
「介護は『嫁』の仕事」と思っているうちに、家族介護者(家族を介護する人)の男性比率は3割を超えた。また、介護は跡取り夫婦の役目とも思われたが、少子化で全員が「跡取り」になってしまったため、誰もが上の世代の家族の介護に直面する。
大介護時代は、すべての人が自分の人生のどこかにケアを組み込んでいく時代である。樋口氏はその対策として「家族の概念を広げる」ことを提案する。
スウェーデンでは家族以外の人が介護休業する際、介護を受ける人の承認があれば80%の所得補償が認められるという。まさに「遠くの親戚より近くの他人」を地で行くような制度だ。家族はもちろん大切だが、戦後の日本は、子育てにしろ介護にしろ、「近代化」の歪みをすべて家族に押しつけてきた観が強い。「社会の変化に応じて家族や個人を支援しなければいけない。私たちも自分が選び取った縁を地域で築く必要がある」という樋口氏の主張は説得力がある。
かつて「家族」は聖域ではなかった
そもそも現代の「血縁核家族」という形態は人類の歴史から見て極めて特殊である。
近代社会の成立以前、家族単位での「私秘性」はなく、今日的な意味での「家族」と「コミュニティ」の厳然たる差異はなかった。