温暖化と消費社会のグローバル化、世界の脅威に 国連報告

食料の入手可能性とアクセスのみならず、質が重視されるようになっている〔AFPBB News〕

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 食品の安全性は、アジア・太平洋地域でますます関心が高まる品質という問題の一端にすぎない。食料の入手可能性とアクセスは、食料安全保障という問題の中で依然として重要な位置を占めている。しかし現在、量の問題に注力することで、質の問題が犠牲になっているという認識が高まりつつある。

 米国を拠点とするシンクタンク the International Food Policy Research Institute(国際食糧政策研究所=IFPRI)で所長を務める Shenggen Fan 氏は、「1970年から1980年代にかけては、人口規模に見合った食料の確保という性質の異なる問題に直面していた」と指摘する。

 「高いレベルの生産性と産出量の実現に注力した結果、栄養の問題に対する取り組みがおろそかになった面がある」というのが同氏の見解だ。

 栄養不良という言葉は、食料あるいは必要な栄養分を十分に確保できない状態という意味で使われることが多い。しかし、これはアジアが直面する食料の質という問題の1つにすぎない。

 多くの国では、塩分・脂肪分・糖分を多く含む加工食品の摂取量増加などを背景に、肥満のまん延が大きな問題となっている。オーストラリア・ニュージーランド・シンガポール・香港・台湾・韓国・日本といった先進国では、公的保健制度に対する負荷の増大を懸念し、予防医療という観点から肥満への対応が始められている。

 また、国民の多くが食料の確保に悩むインドやフィリピンなどの発展途上国も、肥満の問題に直面しつつある。

 こうした国では、急速な経済成長と大きな所得格差により、栄養不良がもたらす“二重の負担”(カロリー過多と栄養不良が同時に生じる状態)が生じているのだ。各国政府が健康増進キャンペーンや規制の枠組みといった面から対策を講じる中、アジアの加工食品メーカーは、より積極的な対応を求める世論の圧力の高まりに直面している。

 近年の取り組みは、栄養不足あるいは微量栄養素欠乏(MNM)に対する懸念の高まりを反映するものだ。例えば南・東南アジアでは、健全な経済成長率と貧困率の低下が見られるものの、MNMのまん延は依然として大きな問題となっている(低所得層や若年・老年人口以外にも影響は広まっている)。

 国連によると、モンゴル・カンボジア・インドネシア・ラオス・フィリピン・タイ*1といった国々でも一般国民の間でMNMが拡大しており、“主要な”農産物・食料生産システムによって提供可能な栄養価の見直しが進められている。

統合の功罪

 アジアで食料サプライチェーンの複雑化が進み、食料の質という問題への対応はますます難しくなっている。

 手ごろな価格で入手可能な食料を十分確保するという目的のため、各国政府は世界的な農産物・食料生産システムへの統合を進めてきた。その結果、国境を越えた食料サプライチェーンの長大化が進んでいる。

*1=United Nations.“The Millennium Development Goals Report,” 2011.