アジアでは、食料安全保障に関する議論の焦点が、量の問題から質の問題へと移行しつつある。食品汚染スキャンダルが大きな注目を集めているが、肥満率の上昇や栄養不良も同様に深刻な問題だ。

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 食品の質に対する懸念が、アジア全体で高まりつつある。その大きな要因の1つとなっているのは、食品汚染スキャンダルが近年頻発している中国の存在だ。6人の乳児が死亡し、30万人以上が健康被害を受けたメラミン混入粉ミルク事件から約5年が経過した。しかし中国本土の子持ち家庭では、国内ブランド製粉ミルクに対する不信感が依然として根強い。

 その結果、世界各国で供給不足の問題が生じている。香港では、乳児用粉ミルクの持ち出しに1人あたり2缶までという制限が設けられた。2013年の3月から4月の間に香港から中国本土への粉ミルク密輸で拘留された容疑者の数は、麻薬密輸による2012年の逮捕者総数を上回っている。

 消費者不安の原因は、粉ミルクだけではない。上海で何千頭もの豚の死骸が黄浦江に浮いているのが発見された他、ネズミの肉を羊肉として売るといった“食肉関連犯罪”の集中取り締まりにより900名が逮捕されるなど、2013年に入ってからも憂慮すべき事態が発生している。

 最も深刻なスキャンダルの多くは中国に集中しているものの、食品の安全性についてはアジア全体で懸念が高まりつつある。インドでは、“マサラ”と呼ばれる炭化カルシウム(発ガン性物質として知られている)を使って果物を人工的に熟成させる農家の存在が明るみに出た。その背景の1つとなっているのは、同国で食品の貯蔵・輸送インフラが十分に発達していない現状だ。

 また2011年には、メタノール混入密造酒により死亡した143人を対象に、西ベンガル州で捜査が行われた。この事件により、食品製造の約90%が貧困層の多い都市部を拠点に非公式な形で行われているという同国の実情が改めて浮き彫りとなっている。

 先進国も、食品安全危機と無縁ではない。今年9月には、収穫後のニュージーランド産リンゴに菌の発生が確認され、中国向け輸出の停止という事態に陥った。

NZフォンテラの乳製品、ボツリヌス菌汚染は誤報

ニュージーランド乳製品大手フォンテラ製の原材料が使用されている「デュメックス」の乳幼児向け製品も自主回収された〔AFPBB News

 また同国の乳製品輸出最大手Fonterra(フォンテラ)も、自社製品からボツリヌス菌発生の原因となるバクテリアが検出されたという発表を今年8月に行った。

 世界各国では、これを受けて該当製品の自主回収が行われ、中国も同社製品の全面禁輸に踏み切っている(その後の検査によって、汚染は誤報であったことが判明した)。

 こうしたケースで浮き彫りになったのは、最高水準の安全管理体制下でも食品汚染リスクは避けられないこと、そして複雑化する世界規模のサプライネットワークの中で安全性を確保するために、効果的な危機コミュニケーションとリスク管理戦略が重要な役割を果たすという事実だ。