金正恩の拙速な経済改革

 経済改革の必要性について金正恩と張成沢の間に不一致はなかったが、その進め方を巡って対立があったようだ。経済面で成果を挙げることに焦る金正恩は、2013年に入り経済特区を全国規模に拡大し国営企業に裁量権を認める独立採算制を導入するなど急進的な改革を志向した。だが、関係筋は「これに張成沢が反対した」としている。

 外貨を調達できない庶民の苦境を打開するため、当局は2013年後半に労働賃金を市場価格に近づける措置を講じた。韓国市民団体が発行する「デイリーNK」(2013年11月8日)は、「2013年9~10月に、茂山鉱山など重工業企業の一部で賃金が100倍になった」と報じている。

 だが、当局はインフレの加速を避けるため、10万ウオンが現金で、支払い残金分は現物で支給するとともに、支給される現金で市場サービスを利用しないという条件を付けたとされる。

 しかしこのように使い勝手の悪い現金を支給したら、自国通貨の信認失墜を助長するだけではないだろうか。2010年頃から「北朝鮮は経済問題を解決するための『2次デノミ』を準備中」との観測が出ていたが、今回も2009年のデノミの二の舞いを演じてしまったのかもしれない。

 人民の生活をさらに悪化させた失政を張成沢の「血の代償」で購ったが、今後成果を出せなければ、その責任は金正恩本人を直撃する(すでに直撃しているかもしれない)。

 2013年12月11日付「聯合通信」は「北朝鮮は経済危機から金の売却を開始した」と報じたが、金日成の遺訓(どんなことがあっても富を売り払ってはならぬ)に抵触する措置に踏み切っているのだとしたら、北朝鮮の経済危機がかなり逼迫しているのではないだろうか。

 2014年1月17日付デイリーNKは「最近当局が、平壌地域住民が保有する外貨全額を北朝鮮ウオンに交換するように指示した」と報じた。1カ月以内に交換しない場合当局は外貨を強制押収すると脅かしているが、しばらくすれば国民はまた外貨を隠し持つに決まっている。