もちろん、素材そのものも鋼(はがね)としての調質に始まり、溶けた鉄を「結晶」させてから引き伸ばして線材に加工し、それを巻いて切り、熱処理をする・・・という、その全てのプロセスで、素材の結晶構造から均質で、設計どおりのものが大量に作れるように、鉄鋼メーカーからバネ加工メーカーまで全てが高いレベルのものづくりを目指し、実現してきた。素材から製品まで、その品質が実現されているかを確かめる試験方法の確立も欠かせない。

世界で750万本ものバルブスプリングが交換対象

 今回のリコールは、そのバルブスプリングが「材料中に微小異物があるとスプリングの強度が低下して折損することがあります」というのである。

 鋼材の中に異物など混じるわけがない。鋼としての特性を調製するために様々な物質を混ぜるのだが、それらも含めて、金属が結晶し、熱処理でさらにその構造が変化する。そのプロセスの中で意図しない結晶構造ができ、変形(伸縮)を繰り返して金属疲労が進むと、そこに「応力が集中して」破断することが起こる、という現象のはず。

 もちろん、こうしたプロセスで作られるバネの素材を完全に均一にすることは不可能で、例えば100万本とか200万本に1本程度の不良品が混じることは、確率として起こり得る。それは製品個体の不具合として現れる可能性があるということで、リコールの対象になるものではない。

 今回、リコールの対象となっているのは、GR系と呼ばれるV型6気筒の3.5リットル仕様(2GR-FSE型)と、UR系と呼ばれるV型8気筒の4.6リットル仕様(1UR-FSE型)と5リットル仕様(2UR-FSE型)という、V6はレクサスIS、GS、トヨタ・クラウン(GSとクラウンはハイブリッド仕様も含む)、V8はレクサスの最上級モデルであるLS、LS600(ハイブリッド)、GSに搭載されている。

 ぎりぎりまで簡素化したり、性能限界で使われる可能性が多い機種ではなく、高品質であることを最大の特徴とすべきクルマたちの「心臓」にこういう問題が起こったということも、実は大きな問題。だが、トヨタが先鞭をつけた最近の「高級ブランド」は、必ずしも工業製品としての質の高さを追求する製品ではなくなっているので、とりあえずこの問題は脇に置いて、話を進めるとしよう。

 現在も製造され、搭載されているエンジン3種だが、リコールの対象は2005年7~8月以降から2007年6~8月のほぼ2年間に製造された車両。エンジンは別の工場で組み立てられて車両組立ラインに送られることもあり、車種によって製造期間に多少の違いが出ている。

 日本国内だけで、2GR型エンジン搭載車が5万4859台、1URおよび2UR型エンジン搭載車が3万7044台。米国では全数で約13万8000台と発表されている。それ以外の仕向け地まで広げれば、対象車両の総数は27万台に及ぶという。

 いずれも1気筒(シリンダーのこと)当たり吸気2、排気2の4バルブ方式であり、各々に1個のバルブスプリングが組み込まれる。つまり、6気筒のエンジンで24個、8気筒では32個。日本の対象台数だけで計算しても、総量で250万2000本のバルブスプリングが使われている計算になる。その中からすでに220台ほど、現実にバルブスプリング折損が発生しているという。

 発生の頻度としては、確かに「異常事態」である。