週刊NY生活 2013年8月10日454号

倉岡伸欣さん

 「レストラン日本」は、1963年、当地で初めて本格的総檜造りの寿司バーを開設した店。8月19日に創業50周年を迎える。

 主人の倉岡伸欣氏の半世紀にわたる足跡は、単に日本食店のオーナーとしてでなく、ニューヨーク地域における日本食の普及と地位向上に骨身を削り、ひいてはアメリカの寿司ブームの土台を築いた50年といっても過言ではない。

 プラザ、ウォルドルフアストリア、ピエールといった名だたるホテルで1960年代、パーティー会場に初めて日本食を出し、66年には日航の東京~ニューヨーク路線就航で機内食に初めて和食を搭載、75年には昭和天皇・皇后両陛下ニューヨークご訪問に際して公邸での公式晩餐会の料理を受け持ち、岸首相の時代からNYでのケータリングの日本食番を担当、中曽根首相以後、歴代の各首相が来店し続けるなど、時代の要にNYで必ず日本食というキイワードを通して日米関係をつないできた。

 ブルームバーグ市長は毎月すき焼を食べに来るし、故マイケル・ジャクソンは座敷で鉄火巻を食べてサクラサクラを歌った。元ヤンキースの松井秀喜さんも引退の夜に訪れた。決して安定志向ではなく、経営理念は未来志向で、その半世紀は闘いの連続だった。

 1989年にはアメリカに下関のトラフグを輸入する許可を5年かけて取得、同年カナダ・モントリオールの自家農場でそば栽培を開始。

 「ニューヨークでレストランビジネスを長くやっていこうとするなら、オーセンティシティー(本物志向)。ファイン・クオリティー(品質)、リーズナブル・プライスが大切」。1963年にニューヨーク・タイムズの料理評論家、クレイグ・クレボーンがくれたアドバイスだ。

 ニューヨークで店を開けて一番良かったと思うのは、時代の流れを肌で感じる現代感覚を食を通して感じられること。「50周年を機にこれからも新しいことに挑戦していきます」。

 慶應義塾大学時代は剣道部主将。NYに生きる現代のサムライだ。

(三浦良一記者、写真も)

■企業データ
会社名:ワコーインターナショナル株式会社 会社所在地:155 E.52nd St., New York / 設立:1961年 /従業員数:105人 / 事業内容:レストラン日本、そば日本経営、国際線機内食、トラフグ購入者協会運営 ウェブサイト:www.restaurantnippon.com

■個人データ
くらおか・のぶよし / 役職:社長 / 出身地:東京都 /学歴:1951年都立戸山高校卒業、55年慶應義塾大学法学部卒業、58年オハイオ州マイアミ大学大学院政治科学学部修了MA取得 /経歴:2006年第1回日本食海外普及功労者表彰受賞。08年日本食レストラン海外普及推進機構NY支部長。2009年旭日小綬章叙勲 /家族:璋(えい)子さんとマンハッタン住まい / 趣味:剣道、慶應義塾NY学院剣道部監督 / 好きな音楽:ファド /好きな言葉「先々の先」(宮本武蔵)

週刊NY生活・本紙記事の無断転載を禁じます。JBpressでは週刊NY生活の許可を得て転載しています)