今回の調査では、成長実現に向けた自信と不安が入り交じる中堅企業経営者の心理状態が明らかになるとともに、国内中堅企業が直面するユニークな状況が浮き彫りになっている。本章では(規制・政策環境を含む)マクロ環境・戦略・人材・財務管理という4つのテーマに注目し、日本の中堅企業が成長実現に向けて描く戦略、そして直面する課題について検証を行う。

マクロ環境

【低迷する国内経済への対応】

 日本の中堅企業は、マクロ環境がビジネスにもたらす課題に明らかな懸念を示している。今回の調査結果によると、国内需要の低迷が今年最大の課題だと答えた回答者は、全体の4分の3にも上った(表3.1参照)。

 また、業界内での競争激化を課題の1つとして挙げた回答者も、半数を上回っている。この結果からも、2013年が様々な面で困難と挑戦を伴う年になると予想していることが見て取れる。

 最も多くの回答者が課題として挙げたのは、国内需要の低迷による収益低下や、縮小傾向の顧客ベースをめぐる競争激化を背景とした値下げ競争といったシナリオだ。

 経済的な課題として上記2つに次いで回答が多かったのは、増税とインフレーションだ。また商品原価を消費者価格に転嫁できないと考える回答者も半数を上回った。一方、為替レートや輸出需要の低下、対中外交関係の悪化を懸念材料として挙げる回答者は、比較的少数にとどまっている。

 こうした様々な課題に対する見方は、業種によって異なるようだ。例えば、国内需要の低下を懸念材料として挙げる製造業の企業は73%に上っている。その大きな背景の1つは、価格競争力が高い海外企業との競争激化に伴う国内製造業の“空洞化”だ。

 高知県土佐市に拠点を置き、電子部品・液晶装置などの開発・製造を行う土佐電子(年商約16億円)で代表取締役社長を務める辻韶得氏によると、製造業の空洞化は同社のような企業にとって「目の前に存在する深刻な問題」だという。「次世代の経営チームが、生き残りをかけた海外移転を真剣に考えざるを得ないような時期が来るかもしれない」という見方を同氏は明らかにしている。

 今回の調査では、製造業企業の多くが為替レート(44%)や輸出需要の低下(30%)を懸念材料として挙げている。その一方で、対中外交関係の悪化を懸念材料として挙げた回答者は18%にとどまった。その理由としては、回答者の多くが中国を主要市場とは考えていない、あるいは外交関係の悪化が企業間の良好な関係に大きな影響を与えると思っていないといった要因が考えられる。

 一方、製薬企業が経済面で最大の懸念材料と考えているのは増税だ(同業界に所属する回答者の71%が2013年の課題として選択)。業界内での競争激化を懸念材料として挙げる回答者も同様に多かった。同セクターの回答者は、国内市場の状況により大きな関心を持っているようだ。為替レートや輸出の減少など外的要因を懸念材料として挙げる回答者は、それぞれ13%・4%と少数にとどまっている。

 大規模中堅企業(年間売上高500億~1000億円)では、競争激化(44%)や事業リスク(14%)を挙げる回答者が全体平均より少なく、輸出需要の低下(35%)を懸念する傾向がより強く見られた。この結果には、成長を遂げるに伴い市場で優位を確立していくことで、事業展開・運営リスクの緩和が行いやすくなるという中堅企業の特徴が反映されているようだ。

【規制環境への対応】

 成長実現に向けて直面する規制面での課題として、約3分の2の回答者が挙げているのは、日本政府の経済政策だ(表3.2参照)。

 また、ほぼ同じ割合の回答者が不安定な政治情勢を課題として選択している。国内規制の変化(税制を除く)への対応が、成長の阻害要因になりかねないと答えた調査対象者は、全体のほぼ半数に上った。

 今回の調査と総選挙の実施時期(2012年12月)が重なったことで、調査対象者の不安感が強まった可能性はある。

 それにしても、過去5~7年間に日本が経験した不安定な政治情勢により、事業環境に関する先行き不透明感がきわめて深刻なレベルに高まっていることは確かだ。中堅企業には大企業のような経済的影響力はなく、小企業ほどの政策的支援も受けていない。したがって、政治情勢や政策面で生じる急激な変化の影響をより受けやすい立場にあるのかもしれない。