南国新聞 2012年7月19日号

 チョウザメといえばロシアや中国東北部原産でキャビアが採れる貴重な淡水産のサメの仲間だ。最近は日本や台湾などで養殖事業が軌道に乗り、キャビアの産卵にも成功した。白身で淡白、しかも栄養価の高い高級魚としても注目を集めている。しかし、日本や台湾ならともかく熱帯のマレーシアで北国生まれのチョウザメの養殖に挑戦している人がいる。

宝来インターナショナル リッキー・ホー氏

 チョウザメ養殖に挑戦したのはマレーシア華人のビジネスマン、リッキー・ホーさん(右の写真)だ。

 リッキーさんは台湾を旅行した際に知り合った実業家と意気投合し、ジョイントベンチャーでチョウザメの養殖事業を当地で始めることを決めた。

 養殖場はペラ州タンジュン・マリム(Tanjung Malim)郊外の豊かな森林地帯内のリゾートパーク内にある。養殖しているのはパディフィッシュ(PaddiFish)とアムール・スタージョン(Amur Sturgeon)の2種類のチョウザメだ。

 リッキーさんの事業はマレーシアワシントン条約(CITES)に基づきチョウザメの魚卵の輸入を農林水産省から正式に認められ、絶滅危惧種に指定されているチョウザメ養殖事業を認可された国内唯一の企業だ。

熱帯でのチョウザメ養殖で試行錯誤

 台湾や日本では確立したチョウザメの養殖技術だが、熱帯のマレーシアへの技術移転はすぐには成功しなかった。約4年ほど前に試験的に養殖を始めた時の孵化した稚魚の生存率は1%にも満たなかった。

 しかし、現在では稚魚の生育率は90%以上に達し、商業化のめどもついたところ。養殖場の稚魚数は現在2万5000尾ほどだ。

 孵化したばかりの稚魚を飼育する水槽の温度管理が最も重要で、水温は摂氏17度以下、気温も摂氏25度以下というのが試行錯誤の末に得たノウハウだ。孵化から50日間が最も難しい時期で、これをすぎれば生育は安定するので水温が摂氏25度の水槽に稚魚を移す。

さらにエサも生き餌から台湾で開発された高タンパク質のチョウザメ専用の飼料に切り替える。摂氏17度の水温維持には空調を使うが、摂氏25度の水槽に空調費はかからない。養殖場の水は裏手の森林の湧き水を利用しており、この水温が摂氏25度ということが養殖場を設置した大きな理由の一つだ。

 涼しい森の中なので水槽の上に日除けの覆いをかければ外気温が摂氏30度を越えても水温は一定に保たれる。

 魚卵は中国黒竜江省からの輸入で、孵化後の稚魚と他の魚種との接触もない。湧き水の水質検査はシンガポールの専門業者に依頼し、重金属や化学物質、寄生虫やバクテリアなどに汚染されていない清浄な自然水であることが証明されている。

 このため、養殖されているチョウザメは寄生虫や化学汚染などとは一切無縁で、淡水魚ながらも刺身にして全く問題の無い清潔な魚だ。