しかし、4年間頑張ってみて、卒業時にどうしても永年続く自衛隊での組織の生活に不安を覚えるとか、自衛隊以外の途を選びたいという学生が5%ほど出てくるのはある意味当然であろう。

 入ってきたときに最初から自衛隊の幹部を志すなどというのは少数派だった学生の95%が任官する。学生舎での生活指導に当たる自衛官としての先輩である指導官が、熱心かつ真剣に学生の相談に乗り、アドバイスし、説得した結果の任官辞退者5%である。

 ところが今回の法律改正をして、そういった学生から償還金を取るという。250万円払えば公明正大に「任官しません」と言える制度になった。

 大学生を持つ親にとって250万円は、安い金額ではないにしても普通の大学へ4年間払う金額を思えば必ずしも払えない額ではないだろう。

 防衛大学校が幹部自衛官の養成のための学校であり、主要供給源であることは将来も変わらない。そうであれば学生隊の指導教官は今まで以上の熱意と時間を卒業予定者の指導にそそぐ必要が出るだろう。

 「私は250万円払います」という学生をどう説得するのだろうか。おそらく任官辞退者は増え、したがって入校時の採用学生の数を増やすことになる。償還金どころではない予算増加が必要となるであろうが仕方がない。しょせんは事業仕分け程度の中から出た決定である。

 任官辞退に対する償還金の考えは昔からあった。しかし高名な文学者が防衛大学校学生を世代の恥辱といい、自衛官が税金泥棒と侮辱される時代に、償還金なんか課したら誰も防衛大学校に入学するものがいなくなるのではないかという危惧からその話はいつも立ち消えとなった。

 しかし今般250万円の償還金を取ると決めた以上、受験生の数、すなわち質を確保できるという見積もり、もしくは確保する方策は政府・防衛省として当然あるのだろう。

 つまらないことを決めたものだ、という慨嘆が筆者の最初の反応だが、決めた以上、前向きに考えてもいいかもしれないと思い直した。

 今までの任官辞退者は心のどこかに複雑な思いを持って自衛隊以外の途へ進んでいったものが多いのではないかと思う。しかしと言うべきか、だからと言うべきか、彼らのほとんどは防衛大学校の教育とそこでの経験に深い愛着と郷愁を持ってその後の人生を歩んでいった。また心のどこかに国防の一端をなにがしか担うべきだと思いつつ人生を歩んでいったのではないか。

 防大創設50年を過ぎ、卒業生の3分の1は、すでに自衛隊をも退職し民間社会に帰っている。自衛隊を退職して一民間の人間になってもやはり国防のことに思いを致す今、改めて任官辞退をして企業人として生きてきた彼らの話を聞けば、やはり彼らも社会の中でなにがしか国防について考えて生きてきたものが多いことを知る。