また、女性自衛官に対する配慮も必要であろう。防衛大学校卒業生で6年勤務すれば30歳くらいになるが、今までは結婚出産で退職するのに義務的な制約はなかった。

 しかし今後は義務年限として勤務を要求するのであるから、義務年限の間は少なくとも出産しても託児所で困ることなどないよう、主要駐屯地には託児所の設置も急がねばなるまい。

 そうなれば、当然250万円懐に入れて最初から民間へ行くことを前提として入学してくる学生もいるだろう。学生指導の難しさは倍増する。

 ここで最も重要なことは、卒業時に任官しないことは認めても、防衛大学校が幹部自衛官養成のいわゆる軍学校であることに、いささかの変化もあってはならないということである。

 今までは原則的に全員が幹部自衛官になることが前提であったから、軍学校的色彩をある意味で薄めて学業、知的水準の向上を重視する方向性を打ち出しても、基本的価値観は軍事的合理性を大前提にしていた。

 しかしこれからは全員が幹部自衛官になることを前提にしないわけだから、極めて明示的に防衛大学校は軍学校の性質を強くしていく必要がある。

 幹部自衛官、国軍の将校が、高い知的水準を求められることは言うまでもなく、だからこそ医師、弁護士と並ぶ高い専門性を持つ職業とされているのである。

 しかし、幹部自衛官にとって知的水準の高さが十分条件ではない。血と泥にまみれ、時として合理、不合理を超越する任務達成、勝利追求へのあくなき執念、部下への濃やかな愛情、武力という圧倒的な力を扱うものとしての高い倫理感、これらを支え、維持する気力・体力、そして社会人としての常識、すべてをバランスよく持つことを要求される職業である。

 それが防衛大学校の伝統である「立派な紳士、淑女でなければ立派な幹部自衛官になれない」という考えにつながるのである。

 このような教育は決して知識教育だけでは成立せず、したがって各国とも国軍将校育成の士官学校などを設置しているのである。

 我が国は防衛大学校を陸・海・空幹部自衛官育成のために創設した。すなわち新たな時代の国防組織のリーダーを育成することであり、学生に国家防衛の志、廉恥、真勇、礼節といった精神徳目、軍事組織たる自衛隊に必要な価値観を身につけさせることに大きな意義がある。

 これらが身について初めて、防衛大学校卒業生として民間でも活躍できるのである。自分は卒業後民間に行くからという理由により、軍事的必要性で行う教育、訓練、そして幹部自衛官としての倫理などに抵抗感を示す学生は、在学中に確実に排除しなければならない。

 もしこれができなければ防衛大学校は、入学金・学費合計250万円で卒業できるただの一国立大学になってしまい、その存在意義を失う。

 そうならないためには、防衛大学校関係者一丸となってよりきめ細かい学生教育と指導を継続し、伝統維持のため防衛大学校卒業生を学校長に任命することを含めた継続的改革が必要になるだろう。