これは防衛大学校の歴代学校長や教授方の努力、また特に自衛隊の先輩である指導教官の学生に対する情熱あふれる教育やカウンセリングの成果なのだが、マスコミも政治家もなぜかこの95%に注目せず、辞退者の5%を問題にしたがる。

 高い金と時間をかけて行った事業仕分けは目標の95%を達成できたのか。

 衣・食・住がタダだという。それはその通りである。しかしこれは教育のためであって、学生もしくは父兄の経済的負担軽減のためのサービスではない。

 防衛大学校へ入ると、学生という身分を持つ自衛隊員になる。貸与された制服にはアイロンをかけ、清潔に保ち、靴も必ず磨き、きちっと着こなして授業を受けに行く。

 定期的に行われる上級生による服装点検もある。上級生は、下級生に後ろ指を指されないように服装態度を自ら律し上級生らしさを維持しなければならない。ジーパンTシャツで授業を受けるということはありえない。

 食事も箸の上げ下げから、基本的なマナーを学ぶ場でもあり、各国の軍人将校との交流で神経を使わずともマナーに従って楽しく会食できる程度にまで身につけさせる。

 また居住も全寮制と言われていて、まるで至れり尽くせりに思われている。まさに至れり尽くせりである。しかしそれには教育の観点からはという前提が付く。繰り返すが、決して学生もしくは両親の経済的負担の観点ではない。

 この全寮制こそ防衛大の防衛大たるところである。全学生で「学生隊」という組織を構成し、その下に「大隊」を寮に相当する学生舎という建物を単位に編成し、さらにフロアごとの「中隊」「小隊」に分かれる。

 学生隊から小隊まで、指名された4年生の学生が、学生隊学生長、大隊学生長、中隊学生長などのポストに就き、一定の権限を与えられ指揮・指導的立場の経験をする。

 この学生舎生活は一口で言えば、自衛隊の部隊生活と同じく、朝の起床から、清掃、食事、朝礼などすべて日課時限に従って動いていく。その中で学生長を中心とするある種の自治機能もあり、自主自律の精神も養う。いわゆる大学の「学生寮」といったイメージとは全く違う。

 中隊は、十数個の「室」からなり、この「室」は各学年2名を基準とする8人で編成される。この自習室兼居室と寝室からなる「室」が学生隊の最小単位なのだが、ここで上級生のリーダーシップ、下級生のフォロワーシップを体験し学ぶことになる。

 学年ごとに分かれて受ける授業及び運動部などのクラブ活動以外の生活はすべてこの「室」単位で、あたかも家族のような単位であって文字通り寝食を共にする。

 4年生は最上級学年及び「室長」または「副室長」としての威厳と指導力を、3年生は2年の至らぬところを教育するサイレントプレッシャー、ある意味少しノンポリを、2年生は直接新人1年生を指導する鬼軍曹役を学ぶ。

 1年生は最下級生として部屋の掃除から学生舎の廊下・トイレ掃除、上級生の靴磨きまで、分刻みの日課時限の中で、あらゆることをこなしていかねばならない。