筆者自身は自衛隊に奉職して直接的に国防に身を挺してきたことを誇りに思っているが、任官辞退した卒業生が一社会人として国防に意を用いて生きてきたとすれば、またそれも防衛大学校の教育の国家への還元ではないか。

 防衛大学校では、「卒業して小隊長になれば、自分の親くらいの年の部下もできる。それが幹部である。人の上に立つにふさわしい人間になれ」「君たちは自衛隊の将来を担っていくのだ」ということを常に言われ、教室での勉強も学生舎生活も、そしてクラブ活動も、すべてそこに収斂するのが防衛大学校の教育である。

 いい意味でのエリート教育をし、世のため、人のため、国のために尽くせということを真正面から教える大学が防衛大学校以外にあるのだろうか。

 学費がタダだからという理由で入ってきた1年生が、卒業するときは人の上に立つにふさわしい人物になりたい、社会の役に立つ人物になりたいと思う人材に育っていく。これこそ今の日本に必要な人材ではないか。

 であるならば、250万円払うことで公明正大に他の途を選べるのであるから、防衛大学校の募集人員を1.5倍くらいに増やし、積極的に卒業生の3分の1くらい民間企業など一般社会に還元するのも大いに日本のためになるだろう。いや、必然的にそうならざるを得ない。

 優秀な人間が数多くやめてしまったら自衛隊が困るという意見もあろうが心配することはない。外へ出た優秀な人材が活躍すれば、受験生も増えレベルの底上げができる。

 あまりショートレンジで考えないことである。さらには、優秀な人こそ自衛隊に入りたいと思わせるくらい、自衛隊の幹部としての人生をより魅力的にすることは今回の決定をした政治の課題でもある。

米陸軍士官学校で卒業式、恒例の帽子投げ

米陸軍士官学校の卒業生〔AFPBB News

 また6年間の義務年限も必ずしもマイナスだけに捉えることはない。筆者が米陸軍歩兵学校へ留学した際の同級生はほとんどが陸軍中尉の階級だったが、大尉になって中隊長を経験すれば、社会で高く評価されるという。

 ある同級生は陸軍士官学校卒だったが、5年の義務年限まで務めたのでご奉公はそろそろ終わって民間会社へ行くんだと屈託なく話すのを聞いて、なるほどそういう考えもあるのかと驚いた記憶がある。

 防衛大学校卒業生にとっては自衛隊における6年の義務年限が終わった時は、そこで退職するかどうかを考える1つの結節であろう。自衛隊としてなるべくそこでの退職者を少なくしようとするのか、ある程度の退職者を社会への還元として積極的にとらえるかは議論のあるところだろう。

 筆者としてはある程度の数の幹部自衛官を積極的に社会に出ていかせていいと思っている。防衛大学校や幹部候補生学校などの教育や、部隊における経験を経た若い幹部は文字通り貴重な人材であるがゆえに、社会での活躍も大いに期待できる。自衛隊以外でも日本に貢献できる人材である。

 偕行社の山本卓眞会長が亡くなられた時の新聞報道に、陸軍軍人であったことを戦後の企業人としての資質において好意的に捉えた記事があった。

 陸士・海兵出身で、経済界で活躍した人材が第一線を退いた時期と日本経済の衰退が始まった時期が一致するのは偶然だけだろうか。安全保障に関する洞察、戦術的判断能力、人としての倫理観、国家観を確立して企業人として活躍してきた人たちを継いで、防衛大学校卒業生が力を発揮できるのではないか。

 もちろん就職援護など、今まで以上に親身にすることは当然であり、援護教育なども行い資格を持って退職できるような配慮もあっていい。