冷戦は、このような軍事的対峙を固定化し、当然ながら、北方領土の返還交渉は埒外に置かれた。そして、冷戦の終焉とともに、ヨーロッパ正面は急速な緊張緩和に向かったが、アジアではいまだに冷戦が終結しているとは言えない。

 朝鮮半島そして台湾問題は未解決である。同じように、北方領土問題は、ヤルタ協定などに基づく戦後処理の不完全さ・不徹底から生まれ、冷戦によって現状が固定化されたまま、重い国家的課題として残されている。

軍事的・地政学的対応策を確立して、返還交渉に当たれ

 今日までの日本とロシア(ソ連)の関係は、ロシアの不凍港を求めた南下政策ならびに飽くなき領土拡張政策と、これを努めて国土の遠方で阻止し、日本の安全を確保しようと努めてきた我が国との、数次にわたる対立と衝突そして宿命的な戦争の歴史であった。

露大統領、北方領土問題で「政治より経済優先を」 日露首脳会談

2011年11月のAPEC首脳会議に際して行われた日露首脳会談で握手する野田首相とメドベージェフ大統領〔AFPBB News

 我々は、この歴史を断じて忘れるわけにはいかない。そして、北方領土問題も、まさにその延長線上に位置づけられ、優れて軍事・地政学上そして安全保障上の問題であるというのがその本質だ。

 近年、ロシアにとって、沿海州・樺太から千島列島に至る地域は、石油・天然ガス等の資源エネルギー、漁業資源などの開発の面において、一段と重要性を増している。

 また、地球温暖化の影響によって、北極海の氷が急速に縮小しており、同海における新たな航路や海底資源の開発がにわかに脚光を浴びるようになってきた。ロシアから見た、千島列島(北方領土を含む)の戦略的価値は高まり、極東ロシア軍の役割が大きくなるのは明らかである。

 また、ロシアは、民主国家の体裁を取りつつも国内では強権支配体制を強化し、対外的にはグルジア侵攻や資源戦略の発動など地政学的・戦略的アプローチを露わにしている。そして、過去数年間連続して前年度比15%以上の急激な伸び率(2010年度の伸び率は減少)で軍事費を増大し、軍備強化に拍車をかけている。

 特に、我が国北方領土において、軍事力強化の姿勢を鮮明にするとともに、本格的な軍事演習を行うなど陸海空にわたって活動を活発化させており、その脅威度は警戒レベルにまで高まりつつある。

 加えて、港湾、空港、発電所等のインフラ整備や経済開発を推進するなど、自国領土であるとの既成事実化と実効支配の強化の動きを加速させている。

 ロシアにとって、日本の北方4島、中でも国後島と択捉島は、オホーツク海を内海化(聖域化)し、他国の侵入や干渉を完全に遮断できる千島列島の「連結の要石」である。

 一方、千島列島を連ねる海域は、全般的に水深が浅く、冬季には流氷の影響を受けるので艦艇(潜水艦を含む)の航行を制約する。しかし、国後島と択捉島の間にある国後水道は、幅約22キロメートル、水深は最大約500メートルと深く、流氷到達海域の南端に位置してその影響を受けにくい。

 そして、歯舞群島、色丹島の存在によっても妨害されることなく、潜水艦を含めた艦艇がオホーツク海から太平洋へ自由に進出できる「交通の要衝」である。