たとえ適切な戦略的根拠に基づいてアウトバウンドM&Aを模索し、戦略的にフィットするターゲット企業を選定したとしても、買収から最大限の効果を引き出すことは難しい。

 これまでこの分野で成功を収めてきた関係者への聞き取り調査では、買収プロセス(そしてその後の経営統合)の各ステージで成功の妨げとなる様々な組織的要因が指摘された。こういった問題を回避したり、その影響を緩和することで、買収を価値の創造につなげる可能性をさらに高めることができる。

トップダウンの意思決定

 様々な部門がそれぞれ権限を持つという日本の大企業の組織構造は、M&Aなどの大規模な投資決定を行う際に問題となる。迅速な意思決定の妨げとなるからだ。これは周知のとおりだが、例えば実質的な拒否権をもった様々な部門が牽制しあう状況の中では、全ての意思決定でコンセンサスを形成する必要がある。

 また、各部門の統括責任者は管轄下のマネージャーと協議を行わなくてはならず、マネージャーもその分野に関わる部下に相談することが求められる。

 買収を行う日本企業は、迅速な意思決定ができなかった結果、絶好の機会を逃してしまう、あるいは高い買収額を支払うこともある。さらに大きな問題は、いったんコンセンサスが社内で形成されると、決定を覆すのが極めて難しいことだ。デューディリジェンスの過程で深刻な問題が露呈しても、買収から撤退するのは至難の業だ。

 JTの新貝氏によると、困難を伴う統合プロセスでは「意思決定をトップダウンで行うことが必須だ」という。「買収というのは有事を自ら作り出している状態だ。そして有事に際しては、集中することが重要となる。こうした有事の中でプロセスを遂行するために集中できないのであれば、買収という手段をとるべきではない」と同氏は語る。

 JTでは海外企業との統合プロセスを進める際、意思決定権の大部分をJTI(同社の海外事業部門)に委譲している。“統合委員会”と“統合事務局”からなる管理体制は、トップダウンの意思決定を可能にする体制だ。

 統合委員会は、役員クラスで構成されており、統合事務局は買収プロセスに関わってきたスタッフと全組織を巻き込んで事業計画を作成するプロを含む混成チームだ。各分野のタスクフォースは、統合に関する青写真を元に統合プランを洗練・実践してスタートダッシュを遂行する。

 「意思決定をトップダウンで行うことが必要だ」と新貝氏は繰り返し強調している。また同氏によると、買収の初期段階で計画や戦略の策定を行った担当者が、計画の実行チームに加わることも重要だという。プラン策定段階から責任を持たせて、買収を成功に導くためだ。

 「計画を作る人と実行する人が異なるという状況は避けなければならない」と同氏は強調している。「計画を作ったら終りということでは、当事者意識が生まれない」という。