連載の第1回で、「ファンタジスタ」と称されるサッカープレイヤーの持つ類まれな能力を3つの要素にまとめてみた。それは、(1)「人に見えない構図を読み解く想像力」、(2)「人を圧倒的に凌駕する卓越した技術力」、(3)「一瞬にして人の心を駆り立てる神通力のようなコミュニケーション力」である。

 前回は、(1)「人に見えない構図を読み解く想像力」を取り上げ、それがビジネスの世界に置き換えた時にどういう力を示すのかを、IBM、マイクロソフト、グーグルを例に取って考えてみた。今回は(2)「人を圧倒的に凌駕する卓越した技術力」について見ていきたい。

繰り返しの鍛錬こそが技術力を生み出す

 サッカーの試合でファンタジスタが大方の予想を覆すプレイで熱狂を呼び起こすのは、単に奇をてらったプレイを行うからではない。通常、あり得ないプレイが起こって形勢が大逆転するから、観衆の度肝を抜くのだ。

 「形勢逆転」とは、あっという間に完全に数的優位な体制となったり、高い得点確率でのシュート態勢に達したり、あるいは思いがけないゴールそのものである。まさに決定的な価値創造がなされる瞬間だ。そこにあるのは「不可能を可能にするプレイ」である。

 ファンタジスタには、人には見えないそのプレイの構図が見えている。そして実際にプレイを起こす能力がある。その能力こそが技術力であり、仕事力である。

 ファンタジスタたちは生まれつきそんなプレイを披露できる天才なのかと言うと、どうもそれは違うようだ。持って生まれた才能、サッカーのセンスは卓越したものがあっても、その誰もが憧れの称号に到達するわけではない。

 ほとんど全てのスーパープレイヤーに共通して伝え聞くのは、生まれつきの才能やセンスだけでは決して到達できないレベルの技を目指し、その体得に執念を燃やして、長い年月を精進に費やしてきたという事実である。

 ストリートサッカーで日々、一心不乱にボールと戯れたロナウジーニョ。少年時代にうまくなりたい一心で人一倍技練習に励み、左足のフェイント、フリーキックを磨き上げた中村俊輔──。

 繰り返し繰り返し鍛錬する中で新たな技をマスターしていく姿は、ジャンルは異なるが、シアトル・マリナーズのイチロー選手の少年時代とも重なってくる。そこには、周囲の物差しでは満足することのない、徹底した技への執着、飽くことのない探求心がある。他人との比較で「ここまでできればOK」という合格ラインは存在しないのである。だからこそ、不可能を可能にすることができるのだ。

精進するのは金や地位、名誉のためではない

 実は、この技を獲得し、さらなる高みを探求する姿は、ビジネスの世界においても、様々な業界の様々な企業で観察することができる。

 例えば職人芸の高みを極めたマイスター、達人、名人の方々である。有名な所では日本のお家芸と言われて久しい金型製作の巨匠たち。彼らはどんな計測器を使っても形成できない美しい曲面を右腕一本で叩き出してしまう。