この連載では、サッカーの「ファンタジスタ」からビジネスの世界のヒントを得るべく、彼らがフィールドで発揮する類まれなる能力として3つの要素を抽出した。

 それらは、(1)「人に見えない構図を読み解く想像力」、(2)「人を圧倒的に凌駕する卓越した技術力」、(3)「一瞬にして人の心を駆り立てる神通力のようなコミュニケーション力」の3つである。

 さらに、この3つの力の源泉を掘り下げてみると、見えないものを見るための「純粋な、飽くなき好奇心」、人にはできない仕事をできるようになる「人と違うことへのこだわり」、人を一瞬に駆り立てる「無邪気さや無防備さ、それこそ人を誘い込むフェロモンのようなもの」という3つの資質が浮かび上がってきた。

 3つの資質は人間に生まれながら備わっている本質的なものである。そのため、突出した能力を培う土壌としては極めて強力である。

 一方、子どもが大人になるにつれ、個人が集団の流れに身を委ねるにつれて、角が丸くなるように薄れてしまう。長い年月を経て確立してきた日本の企業社会のメインストリームにおいては、それらを備えた人間はむしろ貴重な存在になってしまっている。

3つの資質は「生き延びる力」に他ならない

 「飽くなき好奇心」「自己主張の強い目立ちたがり」「無邪気な人たらし」。これらはすべて、個人として強烈な存在感を持つ人々に特有の資質である。

 一個の「生命体」として生き残る力を表すものと言ってもいい。

 自分にとって最適な相手を求めて世界を冒険し、他者に先んじて自分を売り込み、最後は見事に相手を誘い込んで満足させ、関係を永続させる。つまり、生殖行為によって自己の保存、継承を図るのである。

 これはビジネスに置き換えても見事に通用する。

 アンテナを高くしてあらゆるビジネスチャンスを探し回り、他社とは異なる戦略に則って差別化した価値を提供し、それを求める顧客を取り込んで価値向上と顧客満足の好循環を確立、永続化させる。全く相似形なのである。

 ビジネスといえども、しょせん人のやること。本来は、生命体を司る理を超えて存在するものなど何もない。シンプルかつ明解ではないか。

ビジネスも生き物

 人間が生きていく環境は高度に秩序づけられ、集団(社会)という単位での方向づけ及び管理がなされるようになった。その結果、人が一個の生命体として生き延びなければいけない、というような切羽詰まった状況はほとんどなくなったと言ってよい。

 それに伴って、好奇心も、自己差別化も、フェロモンの散布も次第に失われつつある。生命体の自己保存原則の記憶は次第に薄れ、あたかも遺伝子に組み込まれた部分が幼児期に顕著に見られるだけになってしまった。