この連載では、サッカーの「ファンタジスタ」と称されるプレイヤーの持つ類まれなる能力を次の3つの要素にまとめてみた。それらは、(1)「人に見えない構図を読み解く想像力」、(2)「人を圧倒的に凌駕する卓越した技術力」、(3)「一瞬にして人の心を駆り立てる神通力のようなコミュニケーション力」の3つである。

 今回は、3つ目、「一瞬にして人の心を駆り立てるコミュニケーション力」を論じよう。

自分たちにしか見えない絵を共有

 いかなるファンタジスタといえども、1人の力でゴールをものにできるわけではない。ドリブルで相手を何人も抜き去ってシュートを決めたペレやマラドーナのような例はあるものの、そんなプレイは伝説と称されるほどに稀なものだ。

 多くの場合は、こうだ。巨体ディフェンダーが作る壁の前で、ファンタジスタがヒールキックでボールを予期せぬ方向に流す。そのボールは針の穴を通すがごとく鋭いキラーパスとなり、どこからともなく現れた完全にフリーな状態の味方選手によって、インサイドキックで無防備なゴールに蹴り込まれる。

 蹴るはずのない方角へのパスや、シュート練習よりも簡単な最後のひと蹴りに、驚愕の喝采が起こり、敵の選手は屈辱感に完膚なきまでに叩きのめされる。してやったり。味方選手にとっては、これほど小気味よい瞬間はない。

 なぜ味方選手に限って、他の誰もが予想だにしない希少な確率の顛末にベットすることができるのだろうか。おそらく、その一気呵成の流れに参加している時、もはや客観的なベットではなくなっているのだ。

 その時、彼らは自分たちにしか見えない絵を共有している。そして、人にはできない仕事が全うされるだろうことを互いに120%確信している。

 煎じ詰めれば、ファンタジスタの3つめの要素は、これらのコミュニケーションに尽きる。完成させるべき絵を一瞬のうちに共有し、その絵を完成させるための各人の役割(仕事)について、たちどころに伝えるのである。その瞬間に、極限を超えるエネルギーが生まれ、絵が完成する。

起業の成功のために本質的に必要な “ワクワク”

 プレイヤーたちは、人(敵や観衆)に見えない絵があることと、自分たちは他の誰にもできない仕事を成し遂げられるという確信によって、ワクワクしながらベストを尽くすのである。通り一遍の、成功確率120%の「お茶の子さいさい」のプレイしか期待されていない場合には、興奮は生まれない。

 実は前回の結びの言葉が、「思い浮かべてワクワクする」であった。実現したいビジョンが明確になり、そこへ到達する道筋がおぼろげながら見えてきた時、その道なき道に果敢に挑戦する心情を述べたのである。その瞬間、参加者たちは、無謀とも思えるほど困難な命題に立ち向かっていく自らの姿に、諸手で太鼓判を押すのだ。