この連載では、サッカーのファンタジスタからビジネスの世界にヒントを得るべく、彼らがフィールドで発揮する類まれなる能力として3つの要素を抽出した。

 それらは、(1)「人に見えない構図を読み解く想像力」、(2)「人を圧倒的に凌駕する卓越した技術力」、(3)「一瞬にして人の心を駆り立てる神通力のようなコミュニケーション力」の3つである。

 ここでお断りを申し上げるが、この連載は既に完成している原稿を小分けにして掲載しているのではない。具体的な事象の観察から出発して、どうしてそうなのだろうと仮説を考え、世の中の事例や先人の見解から、あるいは先輩諸兄の著作から、類似する因果関係を見出しては納得し、同時に新たな気づきや手がかりを得て書き進む。そんな調子である。

 だから書いている本人にも、この先どう収束していくのか全く分からない。ただ分かっているのは、前回の議論から得たおぼろげな光のようなヒントのみである。

ファンタジスタには童心とも言える無垢さがある

 今回は、前回も登場した「フォレスト・ガンプ」という映画の主人公の話から始めたい。

 前回はフォレストの中にリーダーシップが見出される話をしたが、同時に思い起こされるのは、フォレストというキャラクターそのものが持つ極めて無垢なところ、ほとんど童心とも言える純粋さである。

 そう言えばファンタジスタという存在にも、ある種の無垢なところが共通しているではないか。何人かのプレイヤーを思い浮かべて、そう考えた。同時に、古今東西の名経営者の童心にまつわるエピソードの数々も頭を過ぎった。あ、そうか。これはファンタジスタの重要な共通点かもしれない。

 この無垢さをファンタジスタの本質の1つと仮定してみると、3つの力を支えている資質にも思い及ぶ。

 見えないものを見る力を発揮できるのは、「純粋な、飽くなき好奇心」を持ち続けているからではないか。人にはできない仕事をこなす力の習得は「そもそも人と違うことをしたい自分」を素直に肯定しているからではないか。そして、人を一瞬に駆り立てるコミュニケーションは、「無邪気さや無防備さ、それこそ人を誘い込むフェロモンのようなもの」が出ているからではないか。

 これら3つは全て、意図的に培い、計算して発揮できるものではない。まさしく能力というより資質である。