この連載では、サッカーの「ファンタジスタ」からビジネスの世界のヒントを得るべく、彼らがフィールドで発揮する類まれなる能力として3つの要素を抽出した。

 それらは、(1)「人に見えない構図を読み解く想像力」、(2)「人を圧倒的に凌駕する卓越した技術力」、(3)「一瞬にして人の心を駆り立てる神通力のようなコミュニケーション力」の3つである。

 さらに、この3つの力の源泉を掘り下げてみると、見えないものを見るための「純粋な、飽くなき好奇心」、人にはできない仕事をできるようになる「人と違うことへのこだわり」、人を一瞬に駆り立てる「無邪気さや無防備さ、それこそ人を誘い込むフェロモンのようなもの」という3つの資質が浮かび上がってきた。

ワタミとグーグルに見る「純粋な、飽くなき好奇心」

 前回は、この中の「純粋な、飽くなき好奇心」を取り上げた。好奇心が人間の行動を司る極めて根源的なものであること、また、飽くなき好奇心を持って見つめることで、人には見えないものが見えてくることを、僭越ながら自らの経験に照らして論じてみた。

 無論、「N=1」で一般化するつもりはない。ちなみにこの連載で今までに登場した企業を見てみよう。居酒屋チェーンのワタミが追求した「客単価2000円でも2万円のお客様と遜色のない120%満足のサービス」は、新規参入企業の立場で、同時に顧客の立場で、好奇心いっぱいに「居酒屋」を凝視した結果であろう。

 ベンチャー企業の超巨星グーグルには、有名な20%ルールがある。勤務中の20%の時間を、仕事以外の自分だけのテーマに取り組むために使うというものだ。これは、ミッションから解放された純粋な好奇心に火をともすためにある。会社の事業計画には照らされないブラックホールこそ、アイデアの宝庫かも知れないのだ。

根強くはびこる横並び尊重の風潮

 そして、人が考えないことを考え、人がやらないことをやれば、どこにも負けない企業の競争力になる。今回は、この「人と違うことへのこだわり」を取り上げたい。

 不思議なことに、「差別化」という言葉がこれほどあまねく使われている割には、企業に働く個人の行動においては「人と違うことをよし」としない風潮が根強くはびこっている。

 最たる例は金融界である。以前、私はコンサルタントとして当時の都市銀行をお手伝いしたことがある。その時に、プロジェクトメンバーの優秀な行員の方に言われた言葉が、象徴的だった。

 「こういうことは誰もやっていませんから、何かリスクがあるはずです。見合わせるべきではないでしょうか?」。この一言は私にとって青天の霹靂だった。

 私のキャリアのスタート地点となった建築設計の世界では、人と同じことはやらないのが価値あることとされていた。人のデザインと違うものを作ってこそ、自分が手がける意味がある。そればかりか私自身は、どんなに以前うまくいったとしても、過去に自分が手がけたデザインを二度とは繰り返したくないと考えていた。

 そんなメンタリティーがあったから、まずは周囲を眺めて同じようにやっておけば問題なし、という発想は全く理解できなかった。