この連載では、サッカーのファンタジスタにビジネス世界のヒントを得るべく、彼らがフィールドで発揮する類まれなる能力として3つの要素を抽出した。それは、(1)「人に見えない構図を読み解く想像力」、(2)「人を圧倒的に凌駕する卓越した技術力」、(3)「一瞬にして人の心を駆り立てる神通力のようなコミュニケーション力」の3つである。

 前回までは、3つの力ごとにサッカーとビジネスを行ったり来たりしながら議論してきた。今回からはさらに深く掘り進んで、3つの力はいったいどこからくるのか、その基盤となっているもの、あるいは3つの力を発揮させる条件について考えていきたい。

リーダーシップを「旅」に例えると

 これまでの連載でも明らかになったように、実は3つの力は切っても切り離せない関係にある。人に見えないビジョンを頭に描くからこそ、人にはできないことに果敢にチャレンジ(他人にはない己の物差しで精進)するのだ。また、人にはできないことをするという大それた目標を共有するからこそ、チームは見事に奮い立つのである。

 ここで明らかなのは、ファンタジスタは、「人には見えないものを見る」ところから始まるということである。

 最近書店で出合った本に、奇しくも見事に同じ表現があった。野田智義、金井壽宏という2人のリーダーシップ研究者が著した『リーダーシップの旅 見えないものを見る』(光文社)である。

 手に取って読んでみると、この本で著者が記述するリーダーシップの成り立ちと、ファンタジスタのありようとが大きく重なっていることが分かった。本の一部を引用しながら説明しよう。

 著者は、リーダーシップを発揮する過程を、「見えないものを見る旅」になぞらえる。まず、ある人が「見えないもの」、つまり現実には存在しないビジョンや理想と呼ばれるようなものを見る(もしくは見ようとする)。その人が実現に向けて行動を起こす時、それがリーダーシップの旅の始まりであるという。

 リーダーはこの時点では自分のリーダーシップに気づかない。見たいものを見、やりたいことをやり、自身が描く目標に向かって歩いているだけだ。自分がリーダーシップを発揮しているとは意識していない。

気がつくといつの間にかフォロワーが

 旅の途中にはフォロワーが現れ、リーダーと出会い、一緒に旅をする。リーダーとフォロワーは実現したい何かに向かって、共に旅という時間と空間を過ごす。そのプロセスを通して、お互いの間には一種の共振関係が生じる。

 リーダーが見る「見えないもの」にフォロワーは共感し、いつしかフォロワーの目にも「見えないもの」が見え始める。その過程でフォロワーはリーダーに「フェロモン」を感じ、また、賞賛の感情を抱くようになる。その結果としてリーダーシップが成立する。

 このプロセスを説明するビジュアルイメージが面白い。映画「フォレスト・ガンプ」で主人公のフォレストが失恋を機に走り始める。最初はたった1人で黙々と走っているのだが、そのうち1人、また1人と後からついて走る男が現れる。髭ぼうぼうの姿でアメリカ大陸を何往復も走るうちに、いつしか何十人ものフォロワーがついて来る(このシーンは観客の爆笑を誘うところである)。