この連載では、サッカーの「ファンタジスタ」からビジネスの世界のヒントを得るべく、彼らがフィールドで発揮する類まれなる能力として3つの要素を抽出した。

 それらは、(1)「人に見えない構図を読み解く想像力」、(2)「人を圧倒的に凌駕する卓越した技術力」、(3)「一瞬にして人の心を駆り立てる神通力のようなコミュニケーション力」の3つである。

 さらに、この3つの力の源泉を掘り下げてみると、見えないものを見るための「純粋な、飽くなき好奇心」、人にはできない仕事をできるようになる「人と違うことへのこだわり」、人を一瞬に駆り立てる「無邪気さや無防備さ、それこそ人を誘い込むフェロモンのようなもの」という3つの資質が浮かび上がってきた。

 今回は、資質のトリとなる「無邪気さや無防備さ、それこそ人を誘い込むフェロモンのようなもの」を論じたい。

3つの資質は子どもに当てはまる

 サッカーの世界のファンタジスタたち、彼らがあれほどに大向こうを唸らせるのは、天性のひらめきによって他の誰しもが思いもかけないような動きに出るからである。

 過去の何万回のゲームを精緻に分析して、最大の成功確率、最小の失敗確率をにらんで冷静にプレイしているわけではない。そのプレイは常に遊び心、イタズラ心が満載である。優等生の模範演技ではなく、やんちゃな目立ちたがりによる「自分だけの技」なのだ。要するに子どもみたいに無邪気なところがあるのだ。

 これを経営者に置き換えてみればよい。邪心なく素直に自分が描いた絵の実現に向かっていく姿は、古くは本田宗一郎や井深大について語られた童心に大いに重なるし、最近ではリナックスのリーナス・トーバルズはじめ、多くのIT起業家たちの茶目っ気たっぷりの笑顔がそんな雰囲気を漂わせる。

 考えてみれば、3つの資質は全て子どもに当てはまる。それらは人から教えられる以前に皆が持っている、極めて根源的なものである。

 知りたいという強烈な欲求があり、自分が世界の中心にあって自己主張し、そこには余計な邪推も慮りも計算もない。自らが知覚し得た世界に対峙する自分自身がいるだけである。人間にとって本質的な欲求を余計なことを考えずに実現させる。だから素直に力が入るのだ。

 サッカーのファンタジスタが絵を描いて技を鍛錬して人を引きつけるのは、その全てが分かりやすくシンプルだからではないか。