日本企業の中国展開が加速している。特に中国を販売市場として見る傾向が以前にも増して強まっている。ただし、課題は山積みだ。ネックとなるのは、サービスの現場を担う人材の不足である。

 販売の最前線からは、こんな悲鳴が聞こえてくる。

 上海にある外資企業X社の採用面接の現場。「なぜうちの会社を選んだのですか」と質問を投げかける人事担当者A氏に決まって返ってくるのは、「有名だから」という回答だ。

 A氏は、面接に来る中国人学生の10人のうち9人がそんな回答だと話す。その会社でやりたい仕事があるから、商品に魅力があるから、そんな回答はほとんど期待できない。

 次に、世界のアパレル企業の中で早期から中国に進出するY社。中国人の憧れの「外国ブランド」であり、毎年、中国の有名大学の卒業者や、海外でMBAを取得した人材が集まる。この人材獲得難の折に、優秀な中国人材に恵まれた珍しい企業でもある。

 だが、人事担当のB氏は、ため息交じりにこう話す。「会社がどれだけ人材に投資しても、あるいはいくら期待しても、彼らは半年でいなくなってしまうのです」

 優秀な中国人材は店舗に立つよりオフィスで管理職に就くことを希望する。自分が受けてきた教育に対して相当な自信を持っているため、すぐにポジションを欲しがる傾向があると言う。

 それはそうだろう。朝の8時から夜の9時までみっちり勉強し、世界でトップクラスのハイレベルな教育を受けてきたのだから、今さら「いらっしゃいませ」は言えない。その気持ちは分からないでもない。実際、彼らは要領もよく、周りの人たちよりも早く結果を出すことができる。

 そんな彼らに会社側は「一歩ずつ成長の段階を経てほしい」と説得するのだが、物別れとなり、結局は会社を去るというのが現実だ。

トップセールス賞として自動車を贈呈しても辞めていく

 人材の流失に頭を痛めるのは、長年中国市場で販路開拓に取り組んできた小売業Z社も同じだ。人事担当者は、「金の切れ目は縁の切れ目だ」と漏らす。中国人材が辞める最大のきっかけとなるのは、「会社が給与交渉に応じられない時」だと言う。