自分の子供の前で「仕事がつらい、苦しい」などと言ってはいけない。「仕事は楽しい」「会社は楽しい」と言い続けなさい──。

 中小企業の経営者に向けてこう説くのは、一橋大学大学院商学研究科の関満博教授である。

「日本の製造業が危ない」

 10月23日、茨城県日立市の日立シビックセンターで、「全国若手ものづくりシンポジウム」が開催された。全国の中小企業の若手経営者や技術者たちが集まって近況報告や意見交換を行い、交流を図るというもので、今年で5回目となる。

 このシンポジウムの生みの親が関教授だ。

「全国若手ものづくりシンポジウム」で講演する関満博教授

 関教授は日本のものづくりの現状と将来に深い危機感を抱いている。「日本の工場の数がどんどん減り続けている。東京だけを見ても1983年には約10万の工場があったが、それが2003年には5万以下。20年で半分以下になってしまった」と憂う。

 関教授は、日本の製造業を支えるものづくりの中小企業が衰退する様子を目の当たりにして、立ち上がった。喫緊の課題は、経営者の支援と育成だ。そこで自らが塾頭となって、数年前より若手経営者を相手に私塾を開くようになった。

 関教授の実践的な経営学、そして熱意と人となりに吸い寄せられるように、どんどん若手経営者が集まってきた。現在、全国で約20の地域に、関教授が塾頭を務める塾が展開されているという。シンポジウムの参加者は、その塾生たちが中心。「関塾」の塾生が一堂に会する場でもあった。

家族以外の従業員に社長を命ずると・・・

 さて、冒頭の言葉は、関教授がシンポジウムの中で発したもの。

 なぜ中小企業の経営者は子供の前で「楽しい、楽しい」と言い続けなければならないのか。その理由は言うまでもない、大人になった時に後を継いでもらうためである。

 関教授は参加者を前にして次のように語った。

 「日本の産業を支えるものづくり企業が減り続けている。大半の問題は後継者がいないことだ。いかにして後継者を育てるかが経営者の大きな課題となる。

 『会社というのは社会的な存在だ。だから中小企業といえども、継承する人間は家族に限定する必要はない』と言う人がいる。優秀な従業員や、外部から連れてきた経験豊富な経営者に後を継いでもらえばよいという考えだ。