米国民の消費スタイルが一大転換期を迎えている。これまでの大量消費と低価格追求を見直し、「質」を重視する方向に舵を切り始めた。この傾向は、とりわけ食品に関して顕著に見られる。
「この国は量が全てだ」――。欧州出身の友人は食事をする時、以前はよくそう言っていた。とても腹の中に入りきらない量の料理が、威圧的なまでに皿に盛られているからだ。しかし近年、レストランで出てくる料理の量が少なくなっている。そして値段の高いレストランの方が、量の少ないことが多い。
かつて金持ちを描いた風刺画のモデルは、しばしば腹が突き出た肥満体のブルジョワの男。「金持ち=肥満」の図式だったのだ。ところが今日では、高所得者層は食事に気を配り、ジムでの運動も欠かさず、スリムな体型を維持している。肥満はもっぱら低所得者層に見られる現象となった。運動するのも、栄養を摂り過ぎないのも、おカネがかかるのである。
「工業的有機」で農作物・牛乳を大量生産
米国の食品ビジネスで、唯一急成長を続ける市場をご存じだろうか。それは有機食品ビジネスであり、その規模は230億ドルと言われる。スーパーマーケットでは至る所に「ORGANIC」の文字が踊っている。しかしその人気の一方で、有機食品が実際にどのように生産されているのかはあまり知られていない。
米国のスーパーで販売される有機農産物の多くは、カリフォルニア州のアースバウンド・ファーム社とグリムウェイ・ファームズ社が大量生産したものである。スーパーでよく見かける「カル‐オーガニック」ブランドは、グリムウェイ・ファームズ社の傘下にある。
「有機」と「大量生産」。一見相反するこの2つが、今日の有機ビジネスの下で結び付いている。
拡大する需要と全米のスーパー店舗への供給を満たすには、有機農産物といえども効率的な大量生産が不可欠だ。近代化農業で農産物が大量生産される様は「工場式農場」と言われたが、この大手2社が行っているのは工場式農場の有機版である。巨大な畑で有機作物が最先端技術を使って徹底管理されている。
農産物だけではない。ホライゾン社は全米の有機牛乳の大半を生産している。フィードロットに並んだ数千頭の乳牛に有機牛乳の生産を促し、「超高温殺菌」を施して出荷する。各州のスーパーに流通させるには、賞味期限が長くなくてはならない。
『Omnivore's Dilemma』(何でも食う人のジレンマ)『ヘルシーな加工食品はかなりヤバい』など、ジャーナリストのマイケル・ポーランは米国の食生活を消費者の立場から観察した著書で知られる。高度に産業化して生産された現代の有機作物を、彼は「工業的有機」と呼んでいる。
すなわち、今日の有機食品の多くは、われわれがイメージする「有機」から大きく懸け離れている。ところが「有機」という言葉から連想されるのは、家族経営の小さな農場ではないだろうか。そこでは家畜が自由に歩き回り、美しい自然と調和した牧歌的な生活が営まれているはずである。